X
林由紀夫

林由紀夫

主任弁護士

横浜生まれ。聖ジョセフ・カレッジを卒業後、18歳で単独来豪。ニューサウスウェールズ大学法学部卒業。1979年にオーストラリアで初の日本人弁護士となる。同年シドニーのベーカー&マッケンジー法律事務所に入所。1980年、オーストラリア最大規模で最も伝統ある法律事務所の一つフリーヒル・ホリングデール&ページ法律事務所(現ハーバートスミスフリーヒルズ)に入所し、同事務所商法グループに所属。 1984年パートナーに昇格し、主に日系企業に対し商法の分野において、アドバイスを行ってきた。オーストラリア国内及び日本において多くのセミナーや講演を行い、オーストラリア連邦政府の対日貿易及び貿易促進代表団の一員に抜擢されるなど、日豪経済関係の発展に貢献。1996年に自身の法律事務所「林由紀夫法律事務所」(現在はH & H Lawyers)を開設する。オーストラリア及び日本の上場企業、政府機関、中小企業、個人等に対して様々なアドバイスを提供している。

取り扱い分野

Qualifications

  • 弁護士資格 (NSW州最高裁判所)

  • 移民書士 (MARN 9371079)

コラム

MORE >


労働法

オーストラリアの労働法 / カジュアル・フルタイム雇用の区別に関する重要な判決

オーストラリア連邦裁判所は2020年5月20日、WorkPac Pty Ltd対Rossatoの裁判において、カジュアル・フルタイム雇用の区別についての重要な判決を下しました。 この事件は、Glencore社の所有するQueensland州の2つの鉱山で派遣鉱夫として就労していたRobert Rossato氏と、同氏の法律上の雇用主である派遣サービス会社・WorkPac社との間で、カジュアル雇用された従業員の有給休暇取得権利の有無につき争われたものです。 事実関係 Rossato氏はWorkPacとの間において、明確にその雇用形態が「カジュアル」として明示された契約のもと約3年半以上就労していました。その期間、通常の給与に加え25%のカジュアル・ローディングが支払われていました。カジュアル雇用の従業員は正社員と違い、年次有給休暇や有給疾病休暇などを取得する権利を持たない代わりに、給与にカジュアル・ローディングが付与され支払われることが通常です。 しかしRossato氏は、「その勤務スケジュールが何ら正社員と変わりなく、契約上はカジュアル雇用とされているものの、その雇用実態は正社員と同等であり、よって有給休暇取得の権利がある」と主張していました。 これに対しWorkPac社は、実際にカジュアル・ローディングがRossato氏に支払われていた事実に基づき、「Rossato氏はカジュアル従業員であり、有給休暇取得の権利を有さない」と主張しました。 判決 連邦裁判所 はフェア・ワーク法(Fair Work Act)、企業協定(Enterprise Agreement)、全国雇用基準(National Employment Standards)等を鑑み、「Rossato氏の雇用形態は、定期的(regular)、固定的(certain)、継続的(continuing)、安定的(constant)かつ予測可能(predictable)なものであり、また、勤務スケジュールが事前に知らされる等、実質的に正社員と同様であることから、フルタイム従業員と同等の権利、すなわち年次有給休暇、有給疾病休暇、有給恩情休暇、祝日受給などの権利を有する」として、WorkPac社の主張を却下しました。この裁判の最も重要なポイントは、裁判所は雇用について契約上の形式よりも実体を考慮し、その雇用形態を判断するということです。但し、適用される労使裁定によっては、カジュアル従業員は「カジュアル・レートで給料が支払われている者」などと定義されていることがあり、そうした場合には本裁判のような場合であっても、カジュアル・ローディングの支払いが雇用形態の決定的な判断要素になります。 今後、連邦政府が本判決に対する介入および法改正を実施、またはWorkPac社が連邦最高裁判所に上訴する可能性はあるものの、今回の判決を機に、雇用者はカジュアル従業員の雇用契約条件を見直す必要があるかも知れません。 具体的には、以下の点に関し検討する必要があります。 1. カジュアル雇用に対し、他の雇用契約形態(パート・タイムや期間雇用等)がより適切であるか否か。 2. 該当する従業員のカジュアル・ローディングに関する条項の中に、「仮に従業員の雇用形態がカジュアルでないと裁判所により判断された場合、既に支払われたカジュアル・ローディングは返金とする」等の条項の挿入。 3. 最低でも12ヶ月に1度、カジュアル従業員の雇用形態を定期的に見直すこと。 カジュアル従業員を新たに雇う場合の注意点や、今回のWorkPac対Rossato判決による労使関係一般に対する影響など、ご質問等ございましたらお気軽にH&H Lawyersへお問い合わせください。

24 Jun 2020


刑法

オーストラリアの障害罪 ― 未成年者の障害事件

Q. 今朝、隣に住んでいる12歳の男の子のお母さんが血相を変えて家に来ました。なんでも、私の長男(14歳)と次男(9歳)が、その子に対し暴力をふるい、怪我を負わせたということです。その子は今、病院で手当てを受けているとのことですが、それほどひどい怪我ではないようです。その子のお母さんは、ともかく警察に訴えるとの一点張りです。長男に話を聞いてみると、ささいなことで言い争いになり、確かにその子を何回か「ぶん殴った」と言っていました。次男も近くにあった棒でその子の頭を数回叩いたということです。うちの子供たちはまだ幼く、ただの子供同士の喧嘩のように思いますが、このような場合、警察沙汰になってしまうのでしょうか? A. あなたの長男と次男が隣人のお子さんに対して行った行為は、「正当防衛」などの特別な理由が無い限り、暴行罪に値する可能性があります。この点、あなたのお子さんたちに事件の詳細を聞く必要があると思います。ただし、たとえ暴行罪が成立したとしても、次男の方については10歳未満ですので、警察は彼を起訴することができません。つまり、10歳未満の子供は、刑事責任を問われないということです。 14歳の長男の方に関しては、そうではありません。つまり、警察は、長男の方を場合によっては暴行罪で起訴できるということです。ただし、14歳の未成年者ですので、通常の刑事事件における立証責任に加え、有罪にするためには、警察は彼が「ふざけ半分ではなく、本当に悪いことと知りつつ、その子を殴った」ということを立証する必要があります。この点についても、本人から詳細な話を聞く必要があると思います。 本件の場合、状況によっては、裁判沙汰にならずに済む可能性が多々あります。未成年者の犯罪については、言うまでもなく、当人の「更生」が最も重要と考えられています。そのため、Young Offenders Act 1997 (NSW) に基づき、今回の様な暴行事件に関しては、警察はまず本人に注意(warning)、勧告(caution)または当事者を交えた話し合いの場(conference)を設けるという方法が、本人の更生のために適しているかを判断します。もし適していると判断された場合には、裁判にはかけられず、上述の方法により事件が処理されます。ただし、この方法を得るためには、本人が、「有罪を認める」かわりに、隣のお子さんを確かに殴ったということを「確認する」必要があります。未成年者による全ての犯罪につき、この方法が適用されるわけではないので、留意する必要があります。なお、警察による未成年者の取り調べに関しては、親または成人支援者の同席が必要とされます。無論、未成年者であれ、黙秘の権利は認められています。

26 Jul 2019


労働法

オーストラリアの雇用法 - 雇用契約書を交わしていない社員との間に起こりえるトラブルとは

Q:正式な雇用契約書を締結しないまま勤続して10年になる中堅社員がいます。今までずっと雇用契約書がなくても問題はなかったのですが、やはり雇用契約書は作成したほうがいいのでしょうか?(40代男性=日系企業・人事担当) A:雇用契約は必ずしも書面で締結しなくてはならないといものではありません。口頭での雇用契約であっても法的効力は発生します。そもそも雇用に関する詳細な条件について口頭ですら話し合いがなかったとしても、実際にその従業員が雇用者のもとで働いているのであれば、(原則的に)雇用関係が存在します。詳細な雇用条件につき取り決めを交わしていない場合でも、賃金、就業時間、Annual LeaveやSuperannuationなどは、法で定められた最低労働基準を満たす必要があるのは言うまでもないことです。 しかし、法の定める労働基準は大変複雑です。雇用者としては、最低雇用基準がしっかりカバーされていることを契約書で確認できるようにしておかないと、“うっかり”最低労働基準に違反 してしまう可能性もあり、Fair Work Ombudsman(労働監督署)から罰金の支払いを命じられるかもしれません。 また、最低労働基準を間違いなく上回る条件で従業員が雇用される場合であっても、その諸条件の詳細につき双方の理解が合致していることを、書面でしっかり確認し記録しておくべきです。よく起こる問題として、給料が年棒(時給ではなく)で提示されている場合に、その年俸が何をカバーしているのかについて当事者らの理解が一致していないことがあります。例えば、雇用者はその年棒が「妥当な残業代をあらかじめ含む」というつもりでいたのに対し、従業員は「残業代は別に請求可能」と理解しており、後になって残業代の未払い請求をされた、というケースです。年棒がこうした“みなし残業代”を含む場合には、原則的に、雇用者は従業員にその旨を書面で通達することが法律上義務づけられていますので、雇用契約書は必要となります。 また別のよくある問題として、契約書が不在ですと、その従業員を解雇するにあたり必要となる“解雇通知の期間”が不確定となります。通常、雇用契約書に「解雇通知はXX週間前に出すものとする」と記してあれば、(不当・不法解雇の問題は別として)その期間以前に解雇通知を出すことで従業員の解雇は可能となります。しかし、この点について明文化した契約書が存在しない場合、解雇通知の期間は「“妥当な期間”でなければならない」と法律は定めています。“妥当な期間”とはケースバイケースでの判断となるため、しばしば争いの原因となります。 クリエイティブな職種の場合には、その従業員が職務を遂行する過程で生じた知的財産の所有権について明確にする必要があるでしょう。守秘義務や、必要に応じ、離職後の競業避止義務等についても、雇用契約書に盛り込んであらかじめ合意を取っておかないと、後になって雇用者にとって大変不利な状況を招きます。 特に、今回の相談のような中堅社員や上級管理職にある従業員の場合には、上記のような事柄について雇用契約書で定めておかないと、後に大きな労使トラブルへと発展しがちです。しかし、突然「雇用契約書にサインしろ」と求めるのは難しいかもしれませんので、次の昇給・昇進のタイミングに合わせて雇用契約書を提示するのが良いと思います。

04 Jul 2019


家族法

オーストラリアにおける婚姻財産の分配 - 別居中の相続 

Q:オーストラリアに居住して20年近くになります。夫と別居して5年になり、連絡もほとんど取っていません。もう、夫婦としての関係は破綻したと思っており、離婚と婚姻財産分配の手続きを始めようかどうか悩んでいたところ、先日、夫から「末期の癌が見つかって、医者から余命1か月だと宣告された」との知らせがありました。夫の遺言書の内容は知らされていませんが、私に全てを遺すような遺言書を書いているとは思えません。もし彼が亡くなってしまった場合、私の婚姻財産に対する権利はどうなるのでしょうか?また、私にも遺産を受け取る権利はあるのでしょうか? A:オーストラリアにおける離婚及び婚姻財産の分配については、Family Law Actという法律が適用されます。同法第79(8)条により、婚姻財産に関する裁判が開始されていれば、どちらかがその途中で死亡しても、遺言執行人または遺産管理人を故人の代理人として裁判を継続することができます。重要なのは、訴訟は配偶者が存命中に開始されなければいけないということです。もしご主人が亡くなる前に裁判が開始されていなければ、配偶者の婚姻財産分配の請求権は消滅していまいます。従って、もしもあなたが婚姻財産分配という方法を選択するのであれば、早急に訴訟を始める必要があります。 もしご主人が亡くなる前に婚姻財産分配の裁判が始められなかった場合には、あなたの権利は、遺産の相続人としての権利となってしまいます。この点、もしご主人があなたに財産を全く遺さない、または不十分な遺産だけを遺すような遺言書を書いたとしても、配偶者であるあなたには、Family Provision(日本の遺留分請求に似た制度)を求める権利があり、遺産の一部を取得できる可能性はあります。Family Provision上、あなたにはどのくらいの権利があるのか、または無いのかは、裁判所があなたの状況等、遺産に関する様々なことがらを考慮し、自由裁量により判断します。特に重要となるのは、あなたがご主人の扶養家族として自身の生活をご主人に頼ってきたかどうかという点です。 これに対し、婚姻財産分配を求めるという方法では、家庭裁判所は主に「分配対象となる婚姻財産を取得するために、夫婦それぞれがどれだけ貢献したか」という、過去の婚姻期間中の状況の分析に重きをおいて、財産の分配額の判断をします。ちなみに、専業主婦による子育てや家事等の家庭への貢献も当然考慮されます。

15 Jun 2019


当事務所関連

Bringing the worlds of business together – H & H Lawyers

Thursday, 13 June 2019 – Rise of the boutique law firm Doing business with international partners – whether it be an entity operating on Australian soil or a local brand venturing offshore – can be fraught with difficulty. Between establishing a fresh customer base, navigating new laws, regulations and corporate governance, creating effective relationships and becoming nuanced with cultural mores (perhaps the trickiest of all), the business of doing business has the potential to bring an enterprise undone. For instance, exchanging a business card using one hand rather than two can be seen as a sign of disrespect in some cultures. Who would necessarily know? With Australians increasingly undertaking business across the world and with Asian powerhouses such as Japan, Korea and China, navigating the behind-the-scenes landscape, as well as providing direct services and advice, has become all important. Business owners and operators need to focus on what they do best, so employing people who specialise in troubleshooting make-or-break sensitive legal, technical and cultural matters is a vital and strategic move. Sydney’s H & H Lawyers offers this official and unofficial role in its capacity as a firm on the path to being Australia’s biggest ‘‘Asian’’ law firm. H & H Lawyers’ services include commercial and corporate advisory, acquisitions, dispute resolution, employment law, corporate migration and intellectual property. “Our bilingual lawyers have been inundated with work representing multinational corporations and government agencies from Japan, Korea and China that want to expand their businesses into Australia,” says Principal Ken Hong. “We have also been very busy acting for local clients with Japanese, Korean or Chinese backgrounds, or that have transactions with their counterparts in those three countries. “Demand for our services has escalated, so we are rapidly expanding to meet the demand.’’ Fellow Principal Yukio Hayashi says a vital aspect of the firm’s work includes “bridging fundamental cultural differences”. “This cross-cultural dexterity is not necessarily part of our brief, but it’s what we offer as well, as it is so essential,’’ he says. “Our team not only speaks the languages, but also intimately understands the cultural nuances of Asia. This saves our clients so much time in getting straight to the actual issues and resolutions. Without the right knowledge of culture, a lot of key messages can be lost in translation, particularly legal concepts, leading to a frustrating experience for all. “We had one situation recently in which there was an investment in an Australian business by a Japanese company. There were excellent managers and staff in situ, but the incoming management from Japan had their way of doing things that did not rest well with the Australian team, and vice versa.” “This friction was no one’s fault, but we made it our job to navigate the cultural minefield. We were able to get each side to see things from the other’s perspective and that made all the difference.” Hong and Hayashi say that by going this extra mile, the law firm can resolve difficulties and help international-facing businesses to thrive. “The importance of Australia’s trade relationships with Korea, China and Japan need no further explanation,’’ says Hong. “They are our top three trading partners. We look forward to continuing with our work and contributing to Australia’s successful trade relationships with those three countries.” Says Hayashi: “Our firm is well placed and equipped to help clients have a more fruitful, efficient and enjoyable experience in doing business.’’

13 Jun 2019


商取引及び会社法

セール品の返品 - オーストラリアの消費者保護法  

Q:先日、衣料品店でセールをやっていたので、ジーンズを一本買ったところ、2回履いただけでジッパーの部分が壊れて履けなくなってしまいました。店に返品しに行ったところ、「セール品ですので返品は受け付けません」と言われ、なんだか騙されたような思いです。法的にどうにかできないのでしょうか? A:オーストラリアでは、消費者保護法(Australian Consumer Law、以下「ACL」)により、消費者には様々な権利が保証されています。ちなみにACLの適用範囲は大変広範囲にわたり、商品だけでなく、サービスにも適用され得ます。ACLの第54条は、その商品が妥当に「安全で、耐久性をそなえ、瑕疵なく、外見にも問題なく、通常の用途にかなうものである」という、いわば法律上の品質保証を定めています。今回のケースについて言えば、2度着用しただけで壊れるような衣類は少なくとも「妥当な耐久性」があるとは言えないでしょうから、店はこのジーンズにつき、返金、交換、または修理をする義務があると判断します。 ACLの第54条では、その商品につき、一般的な用途、価格、表示等が考慮され、その商品の「妥当な品質」の保証の度合いが判断されます。例えば、5ドルのTシャツの場合は、50ドルのTシャツの場合にくらべ、保証される「妥当な品質」の度合いは当然低くなります。つまり、5ドルのTシャツを数回洗濯して色落ちしても、恐らく消費者保証のクレームはできないでしょう。冷蔵庫などの白物家電が1年の通常使用後に壊れた場合には「妥当な耐久性」がないと考えられるでしょう。よく家電等の商品には、決められた期間(例えば1年)のメーカー保証がついてきます。しかしながら、たとえこのメーカー保証期間が切れたとしても、上記第54条が適用されるのであれば、消費者の商品の欠陥に対する権利は継続します。ちなみに、メーカー保証書の中には「このメーカー保証は消費者のACL上の権利を制限するものではない」と記載することが義務付けられています。 また、購入した商品が「セール品」や、中古品、ネットショッピングで購入したものであったとしても、保証の度合いに差はあるでしょうが、原則的に第54条は適用されます。ACLの消費者保証が適用されないケースの例としては、レシートなどの提示ができず、その店から購入した証明ができない、個人間(ガレージセール等)またはオークションで購入した、普通でない使い方をした、また、品質に何ら問題はなく「購入後に気が変わった」という理由だけで返品しようとする場合などがあります。 今回のようなケースで、店がジーンズの返品等に応じてくれない場合には、店のマネージャに「Australian Competition and Consumer Commissionや、Fair Trading等の機関に相談する」と、まずは伝えてみることをお勧めします。それでも応じてくれないようであれば、実際にこれらの機関に連絡すると良いと思います。

06 Jun 2019