別居後受け取った遺産-離婚における財産分与の対象になるか
別居後に受け取った遺産は、離婚の際の財産分与の対象になる当事者の婚姻財産の一部として考慮されるべきではないと考えるのが自然かもしれませんが、裁判所には、当事者の全財産(婚姻前、婚姻中、別居後に取得した資産全て)、及び、各当事者の金銭的貢献度・非金銭的貢献度を全て考慮した上で、以下のどちらかの手段において財産分与に関する判決を下す裁量が与えられています。
上記の点を扱ったHigh Court とFamily Courtの最近の判例をみてみましょう。
Singerson & Joans [2015]
別居後夫は$3,000,000.00の遺産を受け取ったが、妻は婚姻中常に、家事・子育ての分野において、及び、一家の稼ぎ手としても、夫以上の貢献をしてきた。家庭裁判所は、別居した日から裁判までの4年間だけでなく、15年間の婚姻関係における全貢献、夫の初期の貢献と別居後の遺産も考慮に入れ、夫が受け取った遺産を含めた婚姻財産の総額から、妻の取り分を47.5%とした。家庭裁判所は、このような別居後の「棚ぼた」をどう扱うべきかに関しは、一定のガイドラインを提示することを避け、裁判所の裁量によりケースバイケースで判決を下すべきであるという見解を示した。
Holland & Holland [2017]
ティーネージャーの子供を2人もつ当事者は、2007年に別居し2012年に離婚した。別居後3年半後に夫は、死去した兄弟から$715,000.00の遺産を受け取った。この遺産は婚姻財産の一部には含まれず、夫の「財力」の一部とみなされた。控訴裁判において家庭裁判所は、「原則として一財産が財産分与の過程において完全に考慮から外されるということはあってはならないが、場合によっては、これに対する各当事者の権利、貢献度により、その他の婚姻財産とは別に扱うのが適切な場合もある。」とした。
Calvin v McTier [2017]
1人の子を持つ当事者は、結婚8年間後に別居した。別居後4年後に夫は、死去した父から$430,000.00の 遺産を受け取った。この遺産は全婚姻財産、$1,340,000.00の32パーセントを占めた。夫は、この遺産は婚姻関係には全く関係ないので、婚姻財産の一部とされるべきではないと主張したが、裁判所はこの遺産を婚姻財産の一部に含めるとし、これに対し夫が受け取った遺産の貢献度を認め、財産分与の割合を夫75%、妻25%とした。更に夫と妻の所得の差を考慮して10%を妻の取り分に追加し、夫65%、妻35%とする判決を下した。
以上の判例から、財産分与に関する判決を下す前に、まず婚姻財産の全てを明確にしなければならないこと、また、各資産がどのように扱うかわれるかは、ケースバイケースで裁判所の裁量により判決が下されることが分かります。別居後受け取った資産に関する裁判所のアプローチは各ケースの事実関係により異なり、裁判所の裁量により場合によっては、その他の婚姻財産とは別に扱われる可能性があります。