Q:母が先日亡くなりました。母は長年オーストラリアに住んでいましたが、晩年は日本に戻って来ていました。母はオーストラリアの銀行口座に20万ドル以上の預金を持っていました。ちなみに母は遺言書を残さず他界してしまいました。オーストラリア人の弁護士にこの預金の相続手続きを依頼したのですが、「日本の法律について日本の弁護士から意見書が必要」などと言われ、なかなか作業が進まず困っています。オーストラリアの相続なのに、本当に日本の弁護士から意見書が必要なんでしょうか?また、速やかに相続の手続きを進める方法があれば教えて下さい。
A:本件のように日本人の方がオーストラリアに資産を残したまま日本で他界されるようなケースはよく見受けられます。オーストラリアを含む多くの英米法の国においては、「遺言書が無い場合、銀行預金の様な動産の相続については、故人が死亡時に居住(Domicile)していた国の法律が適用される」という定めになっています。つまり、預金がオーストラリア国内にあるにもかかわらず、その相続については日本の法律が適用されるということで、相続手続きは非常に複雑になってしまいます。ちなみに不動産の相続については、その不動産の所在地の法律が適用される事になっています。
本件は遺言書が無いので、銀行がその預金を相続人に引き出させるためには、その州の最高裁判所からLetters of Administrationという、遺産管理承認書を必要とします。このLetters of Administrationの発行に関し、裁判所は(本件の相談者の質問にあるように)、「日本の法律家に、日本の相続法に関する意見書を宣誓供述書(Affidavit)形式で作成してもらって下さい」と求めているのだと思います。
これにつき最も合理的なのは、過去に同じような意見書を出したことがあり、且つ英語でその宣誓供述書を作成できる日本の弁護士に依頼する事です。もしそのような弁護士が見つからない、あるいは見つかっても、こうしたケースの経験が無いと、なかなか作業が進まないということになりがちです。こうした日豪間の国際的要素のある相続に関しては、当地でその分野の経験が豊富で、かつ、日本で協力してくれる弁護士とコネクションがある弁護士に依頼するのが、速やかに相続手続きを進めるカギとなります。
ちなみに上記は遺言書を遺さないで死亡した場合の手続きです。遺言書があれば、その内容に従い遺産の相続がされることになりますので、日本の相続法に関する意見書は求められません。こうした面倒を回避するためにも、遺言書を準備しておくことをお勧めします。