Q:友人から、「もしもの時は、私の遺言書の執行人になってくれないか」と言われました。遺言書の執行人とは、どういったことをするのでしょうか?
A:オーストラリアで遺言書を作成する場合、原則的に、遺言執行人(Executor)を任命する必要があります。Executorとは故人に代わって、故人の遺産を管理し、遺言書の通りに相続人らに遺産を分配する役割を負います。
まず、資産・負債の目録等を作成し、裁判所への遺産相続許可(Probate)の申請をすることになります。Probateとはいわば、裁判所が当該遺言書の有効性を認め、遺産を正式にExecutorの管理下とし、遺言書に従って遺産を分配をしても良いという許可です。
Executorは受託者として責任の重い立場に置かれています。故人が生前に正確な資産・負債の目録を作っておいてくれれば良いのですが、そうしたものが無い状態で故人の資産を調査するのは大変な手間になりますし、Probate取得のために弁護士との打ち合わせを重ね、遺産の分配作業にも時間を費やすことが求められます。特に、遺言書が不公平な相続を指示しているような場合、“貰い損ねた”相続人が、遺言書の無効を訴えたり、Family Provision(日本での遺留分減殺請求に似た制度)の訴えを起こしたりすることがあります。そうなると、Executorは故人の遺産の管理人、つまり“被告代理人”として裁判に巻き込まれることになります。
配偶者や子供をExecutorに任命するケースが一般的で無難だと思いますが、独身・既に死別している場合には、弁護士や会計士など、相続作業のプロをExecutorに任命するのも良いでしょう。Executorは故人の代理人として遺産管理に大きな権限を持ちますので、遺言者としては、全幅の信頼の置ける人をExecutorとして任命する必要があります。
ちなみにExecutorは、その作業につき報酬を得ることも可能です。遺言者が遺言書の中でそうした報酬について予め記しておくのが一般的ですが、もしも遺言に報酬支払いの記述が無い場合であっても、手続きを踏めば、報酬の支払いを受ける事が出来ます。
Executorの任を受けたくないという場合は、拒否することも可能です。そうなるとExecutor不在ということになり、遺産相続作業が不必要に煩雑化したり、遺言者の望まない人が執行人代理として任命されてしまったりするリスクが生じます。
遺言者は存命中に、Executorになってほしい人にその旨を依頼し、その報酬についても説明した上で、受諾してくれることを確認しておくことで、心の安寧が得られると思います。