Q:約半年前、日本に住んでいた私のいとこが、唯一の目ぼしい遺産としてQLDの銀行口座に日本円で約5,000万円ほど預金を残し他界しました。私はいとこの唯一の親族で、オーストラリア在住です。いとこは遺言状を残していませんでした。先日、日本の弁護士にいとこの遺産相続につき問い合わせたところ、「もし私がいとこの唯一の親族であった場合、わたしには日本法上相続権はなく、おそらくオーストラリアの故人の銀行預金は日本の国庫に納められる事になる」と意外なアドバイスを受けました。どうも納得がいきません。
A:故人は日本生まれ、日本国籍で、海外で数年間駐在した以外はずっと日本で暮らしていたものと仮定します。そのように定住所(Domicile)が日本にある方が、QLDに資産を残した場合、遺産相続に関し国際私法の適用があり、複雑な法律問題が発生します。(国際私法とは何であるかについてはまたの機会に説明します。)国際私法上、QLDにある不動産についての相続は、故人の定住所を問わず、QLD州法によって行われます。しかしながら、銀行預金のような動産の相続は、国際私法上、定住所の法律(今回の場合は日本法)が適用されると定められています。余談ですが、もし日本に定住所を持つ方がオーストラリアに不動産及び動産を残して遺言書を書かず亡くなられた場合、不動産相続については当該オーストラリア州の法定相続割合、動産については、日本法上の法定相続割合での相続となります。
日本の相続法によると、故人のいとこには相続権がありませんので、もし預金が日本の銀行にあった場合その弁護士の方がアドバイスした通りその預金は日本の国庫に入れられてしまう可能性が高いと思います。
しかしながら、本件のようなQLD州にある預金に関し、2017年にQLD州最高裁により次のような判決が下されました。事実関係は本件の質問者の場合とほぼ同じです。その判決を要約すると、「日本法に基づく、相続人不在の場合の国庫への納金は、国際私法上の“相続”ではなく、それは法律で定められた国の特権である。そのような法律上の特権は国際私法上QLD州には適用されない。日本法上の相続人が存在しない場合には、QLD州にある故人の動産はQLD州法に基づき相続されるものとする。QLD州相続法上いとこの相続権が認められているので、故人の動産はいとこが相続権を有することになる。」というもので、結果、故人のいとこが銀行預金を相続することになりました。
この判例を鑑みると、本件においてもあなたは故人の財産を相続する権利があるものと考えられます。むろん故人が遺言書を残していれば、こうした国際私法上の問題は起こらなかったはずです。