Q:結婚して20年になりますが、今年の始め頃から夫との仲が険悪になり始め、先日、離婚することで合意しました。私も夫も、オーストラリア国内には大した財産は持っていないのですが、昨年、私の父が日本で他界した際に、多額の現金資産を私に遺してくれました。この遺産は私の日本の銀行口座に入金したままになっています。婚姻財産分割ということで、この遺産は、夫に半分取られてしまうのでしょうか?
A:親などから相続した遺産が、婚姻財産分割の対象資産となるか否かは、その状況によります。当事者同士で合意ができない場合には、最終的には裁判所に判断が委ねられる事になります。それに関し以下に示す事項が考慮されることになります。
• 遺産を相続した時期。むろん離婚した後に相続したものであれば、原則的に婚姻財産とはならないのに対し、婚姻期間中、例えば10年20年も昔に相続したものであれば、時間の経過とともに婚姻財産の一部であると判断される可能性が高くなります。
• 遺産の使われ方。例えば、その遺産が夫婦共同名義の自宅購入資金の大部分として充てられた場合、自宅の婚姻財産分配については、その購入に関し相続人の貢献度が高かったとしてより有利な分配を受けられる可能性があります。つまり、相続した遺産は「自己資金」として考慮されます。なお、ある程度時間が経っていても、その遺産が婚姻財産から完全に切り離された状態を維持していれば、その遺産が婚姻財産分配対象となる可能性は低くなります。
• 故人に対する相手側の貢献度の重要性。遺産を遺してくれた故人に対し、相手側が生前、故人に対し何らかの貢献した場合、状況によっては遺産は夫婦の一方にのみ遺されたのではなく、夫婦両方に対して遺されたとみなされるケースがあります。例えば、(1)相手側が、他界前の2年間病床にあった故人を、フルタイムで看病していた(2)故人が生前、経済的に困窮していた時期に、相手側から、あるいは婚姻財産の中から、経済的援助をしていた、という場合等。
今回の相談者については、相続が発生したのは去年ということであり、婚姻が20年に渡っていたことを考えると、比較的最近のことです。また、その遺産は日本で相続された後、日本の銀行口座に入ったままになっており、オーストラリアでの婚姻生活・婚姻財産と完全に切り離された状態を保っているようです。従い、この遺産が婚姻財産に取り込まれてしまうような特殊な理由が無い限り、配偶者にこの遺産についての権利が認められる可能性は低いと思われます。