Q:万が一、自分が事故や病気で判断能力を失った時のために、今のうちに長男を、日本でいう成年後見人として任命しておきたいと思います。どのような手続きを取ったらよいのでしょうか。(72歳 NSW州永住者)
A:これらの手続きは各州により少し異なるので、今回はNSW州における手続きについてお答えします。
NSW州では、後継人の任命は、Enduring Power of Attorney(略して「EPA」)及び、Enduring Guardianship(略して「EG」)を任命することにより、行う事が出来ます。
EPAは、「法的な権限及び 経済的な判断をする権限」を第三者に委任する手続きです。これによって任命された後見人は、EPAに別途制限が設けられていない限り、本人に代わって、契約書の署名、銀行預金の出し入れ、不動産の売買、資産運用等ほぼ全ての権限を得ることになります。
これに対してEGは、「健康・医療・ヘルスケア等に関する判断・権限」を第三者に委任するための手続きです。本人に代わってどういった医療(歯科を含む)を受けるかという判断の他にも、ケアホーム等の施設に入るといった判断をする事も出来ます。EGではお金に関する権限は委任されませんので、EGとEPAを同時に任命するのが一般的です。
後見人制度とは異なりますが、医療判断に関しては、EGに加えてAdvanced Care Directive(略して「ACD」)という制度もあります。これは誰かに判断を委任するのではなく、あなた自身が「私に万が一のことがあれば、このように医療処置をしてほしい」と医療関係者に対して前もって指示を残しておくという手続きです。例えば、急に重度の脳梗塞で倒れて意識回復の見込みがない等の場合に、人工呼吸器などを使って延命措置を続けるか否か、といった判断について前もって記すことができます。ACDの内容についてはEGで任命された後見人とも話しておき、ACDの書類もEGの任命書と合わせて保管しておくと良いでしょう。
言うまでもなく、EPA・EGの任命はあなたにとって大変重要な事です。例えばあなたが認知症で判断能力を失ってしまうと、原則的にその後のあなたの生活のほぼ全てが、この後見人によりコントロールされることになります。また、あなたが判断能力を失ってしまった後では、EPA・EGの取り消しも簡単にはできません。更に、日本の成年後見制度とは違い、オーストラリアの後見制度では、後見人(EPA・EG被委任者)は裁判所などの監督機関に定期的に報告する義務は原則的にありません。こうした理由から、特にEPAが悪用されてしまうケースがありますので、誰を後見人として任命するかは、あなたの人生の中で最も重要な決断の一つだと考えます。