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オーストラリアにおける離婚の際の財産分与

礼子・レノルズ    15 Oct 2018

離婚の際の財産分与 – マイホームの購入に親からの経済的援助を受けた場合

結婚後マイホームの購入する際、親からの資金援助を受けて購入する場合が多々あります。そのような状況において婚姻関係が決裂した場合、裁判所は親から受け取った資金を財産分与の際どうのように扱うのでしょうか。

一定の条件に基づいて返金が義務付けられていることを明記するローン同意書、担保証書、もしくはローンであることを確認した当事者間の話し合いの記録等なんらかの証拠がある場合、親から受けとった資金はローンであるとみなされます。受け取った資金が親からのギフトであった場合は返済の義務が伴いませんので、婚姻期間が長期にわたる場合は特に共有財産一部とみなされてしまう可能性が大です。親からの資金援助がローンであったかギフトであったかを考慮に入れ、当事者の共有資産の総額を算出しそれぞれの持ち分を決定する際、裁判所は、Family Law Actに明記されている様々な条件を考慮に入れます。

親からの資金援助がローンであったかギフトであったか明確でないケースが多々あり、離婚の際大問題に発展するケースが多々あります。例えば、親から$400,000の資金援助を受け$800,000のマイホームを購入し、すでにローンの支払が終わっている場合、この$400,000がローンであったかギフトであったかは共有財産の総額を定めるのに重要なポイントとなります。これは、その他の資産がなく資金援助の額が多きければ大きいほど重要な争点になっていきます。 

子供に資金援助をする際は、弁護士をその時点で雇い、資金援助の意図を明確にしておくことです。これを怠ると子供が離婚することになった場合、離婚裁判に利害関係者として連名され裁判に出廷しなければならなくなったり、供述書を提出しなければならなくなり、長期間における重度のストレスを抱えることになります。更に裁判となると多額な弁護士費用がかかります。

離婚裁判の際弁護士費用に多額な資金を費やさないためには、財産分与に関する問題で事が裁判に進展ないよう、早期和解に向けて、初期段階において相手側と適切な交渉を開始することが重要です。 

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オーストラリアの家族法における家庭内暴力(DV)の定義と立証に必要な証拠

オーストラリアの家族法における家庭内暴力(DV)の定義と立証に必要な証拠   最近の法改正により、裁判所は財産分与を判断する際にDVの経済的影響等を必ず考慮することが明文化されました。以下、Family Law ActにおけるDVの定義に基づき、万一離婚に至った場合に婚姻財産分与で不利にならないために控えるべき行動例と、被害者側が収集すべき証拠に関して整理します。   A. 不利にならないために「控えるべき行動」 ※いずれもDVとして評価され得る行為、または財産分与段階で強く不利に働き得る典型的行為です。(Family Law Act 1975 – Section 4AB) 経済的・金銭的コントロール:配偶者の口座や資産・年金(superannuation)を一方的に支配/アクセス遮断、生活費の不合理な不払い、配偶者名義での無断借入・債務積み上げ、就労の妨害(職場への連絡、出勤阻止等)。 孤立化や監視:家族・友人・文化的つながりを断たせる、位置情報追跡や常時監視。 暴力・侮辱的な嘲り・罵倒・脅迫・破損行為:身体的・性的暴力、脅迫、物損、ペットへの危害。 資産の隠匿・散逸:離婚や別居を見越した不透明な資産移転、浪費、価値の恣意的な毀損(「請求を害する取引」とみなされるリスク)。 命令違反:DVO/AVO等の保護命令や裁判所の中間命令に反する接触・干渉。 強硬な単独実行:住居の施錠変更や重要契約の解約等を相手の同意・正当手続きなく強行。 子の面前での暴力・暴言行為   B. 被害者が「収集すべき証拠」 1) 暴力・脅迫関係 警察のイベント番号、起訴・命令(AVO/DVO)写し、医療記録・診断書、負傷写真、救急やGPの受診歴。 2) 経済的虐待の立証(法改正で重視) 銀行明細(不合理な差し止め・一方的送金・無断借入の痕跡)。 給与明細・勤怠・上司への妨害連絡の記録(就労妨害・減収の証跡)。 生活費不払い・家計負担の偏在を示すメッセージ/メール、各種請求書。 住居移転費・鍵交換費・カウンセリング費・医療費など被害対応コストの領収書。 3) コントロール・孤立化 家族・友人との連絡遮断の指示や脅しが分かるSMS/チャット履歴。 4) 子の前での暴力 子の前での暴力・脅迫や、破損物片付け強要等(以下のような出来事)の具体的事実、学校・カウンセラーの記録。 (a) 子の家族の一員が他の家族の一員に対して死亡又は身体傷害の脅迫を行うのを、子が聞くこと(b) 子の家族の一員が他の家族の一員から暴行を受ける場面を、子が見る又は聞くこと(c) 他の家族の一員から暴行を受けた家族の一員を、子が慰め、又は介助すること(d) 家族の一員が他の家族の一員の財産を故意に損壊した後、その現場の片付けを子が行うこと(e) 家族の一員が他の家族の一員から暴行を受ける事案に警察官又は救急隊員が出動した際、子がその場に居合わせること   5) DVの影響により家族への貢献が困難化/減殺されたことの立証 DVにより家事・育児・就労・資産形成への貢献が実質的に困難化した具体的事情の時系列メモと裏付け資料。   DVを受けている場合 家庭内暴力 (DV) には、身体的、性的、感情的、言葉による、または経済的な虐待が含まれます。DVを受けている場合まずは安全の確保が最優先です。 緊急時は000 相談窓口:1800RESPECT(1800 737 737) 24時間対応で、専門のカウンセラーが対応します。 Bonnie Support Services  日本人ソーシャルワーカー・アコモデーションの手配・別居の際の安全確保等に関する相談にのってくれます。 Phone: (02) 9729 0939 / Mobile: 0429 030 573 Email:  hirokok@bssl.org.au Website:  www.bonnie.org.au  


Family Law Actの重要な改正

Family Law Actがより簡潔で公平なものとなるよう、2025年5月29日よりFamily Law Actが以下の通り改正されます。 DVの経済的影響に関する認識DV(ドメスティック・バイオレンス)により身体的・精神的な傷害を負った被害者や生存者は、労働能力の低下、子どもの養育や家事の管理の困難さなど、生活全般にわたる影響を受ける可能性があります。これにより、結婚(事実婚を含む)における財産への貢献能力にも重大な影響を及ぼすことが認識され、財産分与において現在および将来の状況を評価する際の重要な要素として考慮されることが定められました。また、DVの定義が拡大され、「Financial Abuse(経済的・金銭的虐待)」もDVに含まれるようになります。 財産分与におけるペットの扱い裁判所は、財産分与の際にペットの所有権を決定するにあたり、DVを含むさまざまな要因を考慮することが義務付けられます。これは、ペットを虐待したり、取り上げたりすることで相手を支配・コントロールしようとするケースが多発しているためです。この改正により、家族におけるペットの重要性が正式に認識されることとなります。 CCS(子どもとのコンタクトサービス)に関する規制枠組みの確立CCSプロバイダー(子どもとの面会を監督するサービス提供者)に対し、認定要件が導入されます。これにより、「Supervised Contact Service(監督付き面会交流)」の場において、子どもの安全と福祉が確保されるための基準が明確に設定されます。 機密情報の保護強化カウンセリング記録や健康関連の書類など、被害者の個人情報が家庭裁判の手続きにおいてより厳格に保護されるようになります。これは、加害者がこれらの情報を悪用し、さらなる虐待を加える可能性があるため、被害者を守る上で不可欠な措置として認識されました。 婚姻財産分割手続きの明文化婚姻財産を分割する際の裁判所の手続きを明確化し、特に「Self-represented party(弁護士をつけずに裁判に臨む当事者)」にとって、より簡単で理解しやすい制度となるよう整備が進められます。  


オーストラリアの家庭法 ― 子供の親権について

Q: 現在、夫と離婚協議中です。婚姻財産の分配についてはある程度話が付いていますが、14歳長男、8歳次男、4歳長女の養育についてもめています。 子供たちは私と一緒に住んで、合意した時間帯に夫に会わせるのが良いと思っているのですが、長男は頑として父親と住みたいと言っています。長男に影響されてか、次男も父親と住みたいと言いだし、長女は「お兄ちゃんたちと一緒に住みたい」と言っています。フルタイムで仕事をしている夫がちゃんと子供たちの面倒を見られるわけがないと思っていますが、夫は実家の協力があれば出来ると言っています。もしこの点が合意できず、裁判となってしまった場合、子供たちの意見は重要となるのでしょうか?   A:離婚後の子供の養育(誰と住むかも含む)に関しては、オーストラリアのFamily Law Courtは、「何が子供にとって一番良いのか」を基準に、あらゆる状況・事実関係を考慮し、判断します。その中で、子供自身の要望も重要事項として考慮されます。裁判所はその子供の要望の妥当性を判断する上で、その子の成熟度、感情的及び知的能力、その要望の理由、各親との関係等を考慮します。片方の親が必要に応じ養育について、子供の意見を考慮するよう裁判所にリクエストする事は出来ます。その場合、通常、法廷の様な圧迫感のある環境で直接意見を述べさせるのではなく、裁判所はカウンセラーや、サイコロジストの様な第三者を任命し、子供の意見に関するレポートを提出させるという形がとられます。一般的には14歳の長男の要望は重要視されると思いますが、4歳の長女の要望については、あまり重視されないでしょう。8歳の次男については、ボーダーラインだと思います。ただし子供たちの意見の重要性は本人の年齢ではなく、実際の成熟度に委ねられます。最近裁判所は年少の子供達の意見も取り入れる傾向にあります。子供たちの意見の中で特に重要視されるのは、子供たちがなぜ父親と一緒に住みたいかという点です。長期的に安定した子供たちにとって最も良い養育環境を考えた場合、次男と長女の父親と住みたいという理由が「お兄ちゃんと一緒にいたい」というのであれば、あまり重要視されないでしょう。他方、長男の父親と一緒に住みたいという理由が、例えば「お母さんは精神的に不安定で、しょっちゅう子供たちに八つ当たりする」や、「全然弟と妹の面倒をみてくれず、食事もまともに作ってくれない」等であれば、かなり重要視されるでしょう。ただし、裁判所は子供たちの意見だけを取り入れるという事ではありません。責任者になろうという親が、子供達のニーズに応えられる能力(時間、経済力、環境等)があるのかも含め、長期的に安定した子供にとって最も良い環境で養育できるかが総合的に判断されます。  


移民コミュニティにおける家庭内暴力(DV)

オーストラリアでは平均9日間に1人の女性が、1か月に1人の男性がDVにより殺害されており、特に移民コミュニティーの中では深刻な問題になっています。移民している方々、特に条件付きパートナービザで滞在している方々は、ビザの心配、英語が話せない、政府からのサポートが受けられることを知らない、家族がいない、出て行く先/資金がない等の理由でDVの被害を受けている人の割合が高いと言われています。DVは暴力だけではなく、精神的・金銭的虐待も含みます。  連邦政府/各州には複数のDV被害者のための相談所があります。連絡先は以下のリンクからアクセスできます。  Support Services: respect.gov.au  英語が話せなくても通訳のサポートも受けらますし、DVから逃れるための短期/中期的宿泊施設を紹介してくれる機関もあります。子供と一緒に滞在できる施設もあります。社会福祉士/心理カウンセラー等の有資格者が親身になって相談にのってくれ、相談者の状況によって受けられるサービスに関してアドバイスしてくれます。本人の意思に反したことをさせられることはありません。取り敢えず受けられるサービスに関する情報収集しておくことで、いざとなった時に行動を起こす勇気が出せるかもしれません。


オーストラリアで離婚 — 敷地内別居中の(元)パートナーに出て行ってもらうには?

Q:この間、妻と離婚の合意をしました。オーストラリアで離婚をするためには、原則的に12か月以上に渡り別居していることが必要だと聞き、寝室を別にするのはもちろんのこと、居間に間仕切りを入れて二つにしたり、キッチンの利用時間を割り当てたりしましたが、ストレスがひどく、どうにかして相手に家から出て行ってもらうことはできませんか?   A:そうした状況であれば、恐らく相手のほうも早く出ていきたいと考えているのでしょうが、レントの金銭的負担が重い場合、すぐに出ていくという決断が難しいだろうと思います。 これが純粋に不動産法の問題であれば、不動産の名義人が誰であるか、大家とリース契約を結んでいるのが誰であるかによって、誰がその家に残り誰が出ていくべきかという判断は簡単につきます。しかし家族法の問題としては、名義人やリース契約の当事者が誰であるかは決定的な要素ではありません。 家庭法の問題として合法的に(元)パートナーを家から退去させるためには、裁判所から退去命令を得る必要があります。ただし裁判所からFamily Law上の退去命令を出してもらうためのハードルは高く、例えばDVなどで一方の当事者の身に危険がある場合などでなければ強制退去は難しいというのが現実です。なお、DVが伴うケースであれば、Family LawではなくCriminal Lawの問題として、警察などを通じてDomestic Violence Orderにより、DVの加害者を家から強制的に退去させるという事は比較的速やかに行うことが出来ます。 持ち家であれば、それは婚姻財産分配の対象となり、一方が退去しても、家の権利あるいは家を売却してその売却益の分配を受ける権利には影響しませんので、そのような険悪な状態を続けていくよりは、お互い話し合って、どちらが退去するか決めてはいかがでしょうか?もし話し合いが決裂した場合には、自ら家を出て婚姻財産分配のための交渉・手続きを開始してしまうというのも選択肢の一つです。元パートナーが家に残って家賃の負担なく住み続けるという状況であれば、明らかに不公平ですから、退去に当たり例えばその期間のホームローン返済は元パートナーが行うなどの条件をつけてはいかがですか?これらの負担分をすべて考慮に入れ、最終的にフェアな婚姻財産分配になるよう話し合いを行っていく事になります。  


オーストラリア家族法 ― 遺産は婚姻財産として分配の対象になるのか?

Q: 半年前から、15年連れ添った専業主婦の妻と離婚を前提とした別居中です。先般妻より婚姻財産の分配について打診がありました。共同名義のマンションや、私のスーパーアニュエーション、銀行預金等を分けるのは納得できますが、私が相続した遺産も婚姻財産として分けなければいけないのでしょうか?というのも、結婚して3か月後に私の祖母が亡くなり、約$15万ドルを相続し2年後に共同名義のマンションの購入資金にあてました。ちなみにマンションの購入価格は約50万ドルで、現在は120万ドルの価値があります。また、昨年私の父が他界し父親名義の東京にある約4,000万円のマンションを相続する事になりました。 A:離婚の際に一方が相続した遺産を分配対象の婚姻財産として分けなければならないかは、相続した時期、婚姻期間、婚姻財産に対する相続した遺産の割合等が考慮されます。すなわち、相続した遺産とは言え状況によっては分配対象の婚姻財産となってしまうという事です。相談者のケースでは、約15年前に相続した祖母の遺産は、既に共同名義のマンション購入代金として充当されていて、かつそのマンションの価値が相当上がっているとすれば、婚姻財産として分配対象となる可能性が高いです。その理由として、相続した時点からかなり時間が経っている事、今のマンションの価格に対する遺産の額が比較的少ないこと、専業主婦として奥様は今のマンションの価値を上げるために貢献したとみなされる事等が考えられるからです。無論、相続した額が15万ドルではなくその10倍の150万ドルであったような場合には違った結果になり得ます。他方、昨年お亡くなりになったお父様名義のマンションについては、相続した時期が別居後であり、比較的最近のことですので、相続対象となる婚姻財産とは見做されない可能性が高いです。相談者の場合には15年前とつい最近の相続という事で、相続時期の違いにより、これが分配対象の婚姻財産かどうかの判断が比較的容易にできますが、例えば相続時期が10年前であっても、その資金が相続人名義の別口座で運用されていた場合等にはこの判断が難しくなります。分配につきお互い同意できなければ、最終的には裁判所が全体の事実関係を考慮し、遺産が婚姻財産として分配対象となるか否かを判断する事になります。