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オーストラリアにおける採用面接の留意点

林由紀夫    23 Apr 2019

Q: 採用面接で年齢、家族構成、病歴、国籍などの個人情報について、面接官が質問するのは違法だと聞きましたが、本当ですか。

(某会社人事担当)

A: それらの個人情報について、質問すること自体は違法ではありません。しかし、オーストラリアでは連邦及び各州において差別禁止法が定められており、人種差別、家族内での役割・性別による差別、病歴・障がいによる差別、年齢差別などは原則的に禁じられています。

そのため、不採用とした求職者から後に「違法な差別を受けた」というクレームを回避するために、業務内容に関し何ら重要でない個人情報について質問するのは避けるべきであると、一般的に認識されているのだと思います。

また、留意する点は、ある一定の規模の会社については、求職者からの要求があれば、プライバシー法にのっとり、採用面接の際に面接官が取ったメモを、閲覧させる義務を負います。

 下記に、いくつかの個人情報に関する質問につき、コメントいたします。

 

 例1:年齢に関する質問

その仕事をする上で、一定の年齢に達していなければならない、または一定の年齢以下でなければならない、といった仕事に関しては、年齢確認の質問は必要です。例えば、酒類を扱う仕事では、雇用者は従業員が18歳以上であることを確認しなければいけません。

例2:家族構成、特に妊娠・出産、扶養家族の有無についての質問

その業務の内容により、それら情報が必要である確固たる根拠が無い限り、避けるべきです。ちなみに、子育てや、年老いた親の介護、体や精神に障がいがある家族のケアの必要などがあるから、という理由で不採用とするのは、男女差別禁止法の一部である、「Family Responsibilityによる差別」にあたります。

例3:病歴についての質問

病気やけがなどのDisabilityを理由とした差別は違法ですので、やはり仕事の内容からしてその情報が必要でない限り、「大きなけがの経験や持病はありますか」といった質問は避けるべきです。仕事の種類によっては、どうしても疾病・けがと相容れないものもあります。例えば引っ越し業者のように、重い荷物を持ち運ぶことが仕事の大部分を占めるような職種では、「重い荷物を運ぶことができないようなけがや病気を現在患っていますか?」という質問をすることは、必要事項であると考えられます。

 また、HIV感染による職業上の差別は原則的に禁じられているものの、1999年の判例で、出血のリスクの高い職種(このケースでは軍人)においては、感染リスクを鑑み、HIV感染を理由とした解雇が合法とされたケースがありました。こうした職種では雇用面接時にHIV感染の有無につき質問することも合法と判断できます。

例4:人種や国籍についての質問

人種や国籍による差別は当然禁じられています。しかし、雇用者としては、就労可能なビザまたはオーストラリア国籍を持っているかなど、合法的に働くことができるという確認を取る必要はあります。このため、ビザの詳細、オーストラリアの出生証明書やパスポートの写しなどを求めることは、必要事項であると考えてよいと思います。

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最新判例から見る取締役の義務

オーストラリアは企業統治において、世界的にも最も規制の厳しい国の一つとされています。これは一方で、透明性や説明責任、利害関係者保護への強い姿勢を示すものである反面、海外投資家や新規参入企業にとっては複雑な規制環境を理解する上で大きな課題ともなります。 海外投資家がオーストラリアに進出し、現地法人を設立または買収する際、第一歩として新たな取締役を任命することが一般的です。しかし、この役割は形式的なものだけではなく、取締役には Corporations Act 2001 (Cth)(オーストラリア会社法)に基づく広範な義務が課せられます。これには、会社の利益のため誠実に行動する義務(fiduciary duty)、最善利益義務・善管注意義務、地位や情報の不正利用の禁止などが含まれます。 2025年に下された Sunnya Pty Ltd v He (以下「Sunnya事件」)などの判例は、これら義務がいかに幅広いかを明示しました。以下、同判決を踏まえながら取締役義務の主要点について解説します。 取締役の信託義務の存続性 信託義務(fiduciary duty)とは、英米法において、他者の利益を優先し誠実・忠実に行動すべき法的義務を指します。典型的には受託者、代理人、会社取締役などが負い、自身の利益よりも依頼者や会社の利益を守ることが求められます。 Sunnya事件では、取締役の信託義務(Fiduciary duty)が退任後も存続するのかが問われました。 当事件ではSunnya社の元取締役が同社の商標を、他の取締役に知らせずに自ら関与する別会社へ移転しようとし、その後退任してからもSunnya社と類似の商標を登録し、使用して事業を継続しました。これは、退任後であっても信託義務の違反となると判断され、元取締役に対して損害賠償が命じられました。 この判決により、「退任によって義務を免れることはできない」という原則が改めて強調されました。 注意義務・善管注意義務(s180) 取締役は会社法180条により合理的な注意・配慮をもって職務を遂行する義務があります。これは「同様の立場にある合理的な人物はどうするか」を基準として判断されます。 2024年の ASIC v Holista Colltech Ltd事件では、会社が虚偽の販売実績を報告した結果、株価操作につながり、会社に180万ドルの罰金が科されました。さらに、当該社長個人にも罰金15万ドルと4年間の取締役資格停止が命じられ、ASICの訴訟費用20万ドルの支払いも命じられました。 この事例は、取締役が適切な注意を怠った場合、会社のみならず個人も直接責任を負う可能性があることを示しています。 非財務リスク及び新たな義務 会社法180条に違反した最近の有名な判例には会社の非財務リスクの見落としを問う事案もありました。この傾向は今後も続くものと思われ、会社に取っての主要課題ESG (環境、社会、統治)、すなわち温室効果ガス排出量の開示、トランジション・マネジメント、サイバーセキュリティ・マネジメント、現代奴隷法に関する報告などの義務がますます増加するでしょう。 取締役は必然的に進化しつつある注意義務・善管注意義務を認識し、今後激化する非財務リスク分野の管理を強化する必要があります。 誠意及び正当な目的(s181) 取締役は会社法181条により誠意を持ち、正当な目的で会社の利益を求めるため職務を遂行する義務があります。「Sunnya事件」では取締役の行動が原因で、Sunnya社が輸入税支払いを免れるため、不正な請求書を発行してしまいました。裁判所はこの行動が181条違反だと判決を下しています。 裁判所はさらに結果的に不当な目的はなかったとしても、または不当な行為が会社の利益になるという意図があったとしても、違反は起きていただろうと決定づけています。なぜなら、違法な行いは決して会社の最善の選択ではないからです。これは取締役が純粋に会社の利益を信じて取った行動でも違反になるという例です。取締役の信念はまず合理的であるべきです。 地位の不正利用(s182) 取締役は会社法182条により自分のため、もしくは他人のため、自分の地位を不正に利用し、利益を得たり、会社に損害を与えることを禁じています。「Sunnya事件」ではMr He とMs Luが取締役に在任中、アンダーバリュー価格を採用したと判決を下しています。Sunnya社はNeurio という商品をGNT が第三者に転売することを考慮して、低い輸出価格で販売していました。 裁判所は上記のようなアンダーバリュー価格取引及び不正な商業送り状は182条違反に等しいと判断しました。特にアンダーバリュー価格取引はSunnya社を直ちに経済的不利な立場に立たせ、その利益を前取締役の家族の会社に転換した経緯から、明らかに182条違反だと決定されました。 取締役は違法行為もしくは私欲のために地位の不正利用をする場合は、再考する必要があります。  情報の誤使用(s183) 取締役もしくは他の役員がその立場で入手した情報を不正に使うことは183条で禁じられています。取締役は取締役を退いた後も、その立場を利用して入手した機密または繊細な情報を使用し、会社に損失を与えてはいけません。 最近の例では、西オーストラリア州控訴裁判所で2023年に下ったChaffey Services Pty Ltd v Doble (No 4) の183条違反に関する最高裁判所の判決が維持されました。当事件でMr Dobleは Chafco Pty Ltd に鉱山現場の保守監督として雇われていました。雇用期間中、Mr Doble は自分の地位を利用して得た極秘情報を使用し、彼が保持する会社、Kirahnley Pty Ltd への 早期資金調達を確実なものにしました。その後、鉱山現場の持ち主から鉱山の再生契約を獲得しました。裁判所は情報の不正利用により得た利益の返還を命じました。その際、極秘情報は本質的に損害賠償を受ける価値のあるものだと強調しました。 この事件は監督者に関することでしたが、法律で定められた条項は取締役にも同様に適用されます。 取締役の個人的負債 上記に示した通り、180条から183条までの義務を怠った取締役はその違反に対して個人的な負債を負います。補償命令及びもしくは制裁金の形が取られたり、取締役資格停止が命じられます。 より深刻な事件では181条から183条の違反が184条によって刑事事件に引き上げられます。取締役に最高刑、すなわち懲役15年が課されることもあり得ます。 取締役は一般的義務以外に、他の特定の責務にも留意しなければなりません。588条の破産取引を避ける義務、また会社が遅延なく納税することを確認する義務などがその例です。 取締役はオーストラリア国税局が発行する取締役罰金通知(DPN)にも注意を払う必要があります。会社が支払うべき税金の未納、例えば源泉徴収(PAYG)立替納税分、退職年金追徴金(SGC)、物品サービス税(GST)納税分などがあります。DPN を受け取ったら、取締役は通常21日以内に負担分の納税をする、破産管財人の任命をする、会社を解散する準備を始めるなどのしかるべき行動を取らなければいけません。さもなければ、最終的には個人で負債を負うことになります。 重要点 取締役はオーストラリア企業の統治と成功に中心的な役割を担う存在です。その責任は法的また実務的な責任で、情報に基づいた積極的な取り組みが求められます。会社を率いる特権と共に多くの責任が求められ、以下のような重要点に気を付けるべきです。 責務を理解すること:取締役は英米法における義務及び条例における義務、そしてその義務が意味することに精通していなければなりません。 常に情報を得ること:取締役は法律や規制の変化に敏感でいなければいけません。特にESG (環境、社会、統治)、気候変動リスク、サイバーセキュリティなどが挙げられます。 注意義務・善管注意義務の遵守:取締役は関連情報を検証し、疑問点を明らかにし、時に挑戦的な経営を実行し、情報に基づいた決断をする必要があります。常にリスク管理フレームワークを見直し、更新することは不可欠です。それが会社を潜在的危機から守ることにつながります。 健全な統治の維持:効果的な統治には明確な方針、利害の衝突への対処法、守秘義務の維持が求められます。また取締役会の決定は企業定款や方針に基づき、透明性を持って決定されなければいけません。  行動や決定を記録に残すこと:取締役会の内容、決定、その決定に至る根拠などに関する記録は広範囲に保管することが極めて重要です。記録の保管は取締役がその義務を遂行していることの証拠になり、後にもし会社の決定が精査されたとしても取締役を保護することになります。 必要時には専門的指導を受けること:複雑な法律、会計、運営危機などの問題に直面した際、取締役は迷わず、独立した組織からの専門的知識を求めるべきです。これが会社の決定を情報が確かで正当な決定へと導きます。 上記の手順を踏むことによって、取締役は法的義務を遵守しているだけでなく、それが会社の効果的な経営と長期にわたる持続可能性へとつながるのです。    


NEW First Home Buyers 5% Deposit Scheme Goes Live!

2025年10月1日より新しいFirst Home Buyer向けの新制度がスタートしました! -  頭金5%でLMI不要(Single Parentの場合は頭金2%でLMI不要) - 所得制限なし - 2025/26年度からは利用枠の制限なし   詳細は新しい「First Home Buyers」ウェブサイトをご確認ください: https://firsthomebuyers.gov.au/   この制度を利用することで、住宅ローン保険(LMI)費用として 15,000ドルから20,000ドル を節約できます。 オーストラリア国民か永住権保持者のみ申請可 決済日(もしくは、居住許可が下りた日から6か月以内に)から6か月以内に購入した物件に入居し、ローンの返済が終わるまで同物件に居住し続けること 中古物件、新築、House & Land Package、Off the Planの物件に適用 週により購入物件の上限が設けられています。(例:NSW Capital City & Reginal Centres: $1.5MIL / その他の地域800k, VIC Capital City & Regional Centers: $950k / その他の地域:$650k, QLD Capital City & Regional Centres: $1MIL / その他の地域:$600k) 条件を満たしていればRefinance可)   詳しくは以下のリンクをご参照ください。 Australian Government 5% Deposit Scheme Information Guide.pdf https://firsthomebuyers.gov.au/australian-government-5-percent-deposit-scheme  


小規模事業者再編制度(Small Business Restructuring)

小規模事業者再編制度(Small Business Restructuring) 2021年に導入された小規模事業者再編制度(Small Business Restructuring=SBR)は、オーストラリア全土の小規模事業者、特に近年の経済低迷の影響を受けた企業にとって、会社清算に代わる重要な選択肢となっています。 特にファミリービジネスを含む小規模企業の事業継続を支援するために設計されたSBRは、企業が営業を続けながら、法的に財務状況をリセットできる仕組みです。   事業継続のための法的手段 SBRは、債務超過に直面した小規模事業者が、従来の清算手続きによる会社閉鎖を回避できるように設けられました。 SBRを利用することで、該当企業は債権者に対して再編計画を提案し、会社法(Corporations Act)に基づき、債務の削減や免除を求めることが可能です。 このプロセスにより、企業は営業を継続しながら、法的に整理された形で財務問題に対処できます。   利用資格と手続き SBRを利用するには、総債務額が100万ドル以下であり、未払いの従業員賃金や年金(superannuation)は含まれていないことが条件になります。 SBRの実行には債権者の承認が必要です。債権者の投票権は貸している金額によって決まり、債務全体の51%以上を持つ債権者が最終決定権を持つことになります。   利用増加とその影響 ASICの最新データによると、SBRの申請件数は大幅に増加しており、昨年は約3,000件が債権者に提示されました。 この増加は、SBRの認知度向上と、多くの小規模事業者が厳しい経営環境に直面していることを反映しています。 特に飲食業界は大きな打撃を受けており、同業界の10社に1社が昨年清算されました。 多くの再編計画では、債務額が20万〜40万ドルの範囲で、債務の最大80%の免除を債権者に求めています。 SBRの約80%が承認されているのも注目すべき点です。   オーストラリア税務局(ATO)の役割 SBR案件の93%に関与しているオーストラリア税務局(ATO)は、最大の債権者(GST) として重要な役割を果たしています。 ATOはこれまでに約2,500件のSBR計画を承認しており、2024-25会計年度3月時点では、ATOが債権者となった再編計画の約80%に賛成票を投じています。 宿泊業および飲食業(カフェ、レストラン、テイクアウトサービスを含む)は、SBR全体の22%を占めています。 ATOの関与が大きいため、再編計画の可否はほとんどの場合、ATOの判断に左右されます。 ATOが再編計画に賛成すれば、他の小口債権者もその計画に組み込まれる形となります。   制度のセーフガードと除外規定 制度の健全性を保つため、過去7年以内に清算や再編に関与した取締役がいる企業は、SBRの申請資格がありません。  


賃金未払いが刑事犯罪に -賃金未払いに関する新しい法律について

賃金未払いが刑事犯罪に -賃金未払いに関する新しい法律について • 新法により、2025年1月1日より、賃金の意図的な未払いは刑事犯罪となりました。 • 企業が安心して事業を続けるために、正確な給与計算、定期監査、早期是正の手続きを行う必要があります。 • 当事務所では、未払い防止体制の整備や監査のサポート、是正手続きのご相談に対応しております。   1. 新しい法律の概要 2025年1月1日より、従業員への賃金や手当の「意図的な未払い」は、オーストラリアのFair Work Legislation Amendment (Closing Loopholes) Act 2023に基づく刑事犯罪となりました。 • 単なる計算ミスや事務的な誤りではなく、知りながら支払わない行為が対象となります。 • 違反が認められると、企業や経営者は高額な罰金や懲役刑を受ける可能性があります。   2. 「意図的な未払い」とは 次のような場合が「意図的」と判断される可能性があります。 • 法定最低賃金や残業代を認識していながら支払わない • 就業規則や契約に定められた義務を故意に無視する • 監査や指摘を受けても是正せず、未払いを続ける   3. 罰則について • 個人(経営者・役員等):最長10年の懲役、または最大165万豪ドルの罰金(未払い額の3倍が上限を超える場合はそちらを適用) • 企業:最大825万豪ドルの罰金、または未払い額の複数倍   4. 企業が取るべき対応(リスク回避のポイント) 1. 給与計算の正確性を確保 o 最新の法律に対応した給与システムを利用 o ダブルチェック体制で計算ミスを防止 2. 定期的な内部監査・専門家レビュー o 年1回以上のチェックを実施 o 必要に応じて労務専門家や弁護士に相談 3. 未払いが発覚した場合の対応 o 速やかに遡及払いを行い是正する o 自発的にフェアワーク・オンブズマンへ報告・協力することで、刑事処分を回避できる可能性あり 4. 小規模事業者(従業員15名未満)の場合 o 「自主的小規模事業者賃金コンプライアンス規範」に従い修正すれば、意図的でないことを示せる可能性が高い 5. 従業員・管理職への教育 o 定期研修を実施し、最新の労働法やリスクについて周知徹底  


Family Law Actの重要な改正

Family Law Actがより簡潔で公平なものとなるよう、2025年5月29日よりFamily Law Actが以下の通り改正されます。 DVの経済的影響に関する認識DV(ドメスティック・バイオレンス)により身体的・精神的な傷害を負った被害者や生存者は、労働能力の低下、子どもの養育や家事の管理の困難さなど、生活全般にわたる影響を受ける可能性があります。これにより、結婚(事実婚を含む)における財産への貢献能力にも重大な影響を及ぼすことが認識され、財産分与において現在および将来の状況を評価する際の重要な要素として考慮されることが定められました。また、DVの定義が拡大され、「Financial Abuse(経済的・金銭的虐待)」もDVに含まれるようになります。 財産分与におけるペットの扱い裁判所は、財産分与の際にペットの所有権を決定するにあたり、DVを含むさまざまな要因を考慮することが義務付けられます。これは、ペットを虐待したり、取り上げたりすることで相手を支配・コントロールしようとするケースが多発しているためです。この改正により、家族におけるペットの重要性が正式に認識されることとなります。 CCS(子どもとのコンタクトサービス)に関する規制枠組みの確立CCSプロバイダー(子どもとの面会を監督するサービス提供者)に対し、認定要件が導入されます。これにより、「Supervised Contact Service(監督付き面会交流)」の場において、子どもの安全と福祉が確保されるための基準が明確に設定されます。 機密情報の保護強化カウンセリング記録や健康関連の書類など、被害者の個人情報が家庭裁判の手続きにおいてより厳格に保護されるようになります。これは、加害者がこれらの情報を悪用し、さらなる虐待を加える可能性があるため、被害者を守る上で不可欠な措置として認識されました。 婚姻財産分割手続きの明文化婚姻財産を分割する際の裁判所の手続きを明確化し、特に「Self-represented party(弁護士をつけずに裁判に臨む当事者)」にとって、より簡単で理解しやすい制度となるよう整備が進められます。  


オーストラリア労働法 - 「通信拒絶権」

2024年2月のFair Work Act 改正に伴い、2024年8月26日から労働者の「通信拒絶権 (The Right to Disconnect) 」が法制化されます。 1.「通信拒絶権」とは? 通信拒絶権とは、従業員が勤務時間外にメールや電話などの業務上の連絡の確認、応答を拒否する権利(ただし、その連絡が妥当・reasonableな場合を除く)を指します。この権利は雇用主・従業員間だけでなく、業務に関する第三者、例えば顧客などからの連絡にも適用されます。 この法律は、勤務時間外に雇用主が従業員に連絡することを禁止するというものではありません。あくまで、勤務時間外に、業務関連の妥当でない連絡があった場合には、従業員がこれらに即対応しなくても良いという権利の事です。   「小規模事業者」 の猶予期間 小規模事業者は、準備・調整期間として、2025年8月26日まで通信拒絶権制度の適用が免除されています。 「小規模事業者」とは、従業員15人未満の事業者を指します。この数にはフルタイム、パートタイム従業員だけでなく、定期的な勤務をするカジュアル従業員も含まれます。親会社・子会社などで構成されるグループ会社はまとめて一つの事業者とみなされます。   2.「妥当な連絡」とは? 勤務時間外における、業務連絡に関し、妥当且つ必要とされる連絡については、通信拒絶権の行使はできないとされています。連絡が妥当であるか否かの判断には、次の要素が考慮されます。 1.連絡の理由とその緊急性 2.連絡方法と、従業員への支障の程度 3.勤務時間外の作業に対する報酬の程度 4.従業員の役職と責任の程度 5.従業員の個人的な状況 例えば、その連絡が法律上必要なものである場合などは、通信拒絶権を行使できません。また、通信拒絶権の行使の度合いは、職責により異なると考えられます。例えば会社取締役などの職責の重い従業員の通信拒絶権は、一般事務職の従業員とは異なります。   3.通信拒絶権に関わる紛争 これは新しい法律であり実際の運用にはまだ不透明な部分が多いため、当面は多くの職場でこの権利に関する紛争が起こりうると思われます。紛争は、従業員がこの権利を行使した場合に、雇用主がその従業員に対しWarning Letter、減給、解雇などの措置を取った場合に起こり得ます。紛争が発生した場合、まず雇用主と従業員の話し合いを通して内部で解決することが望ましいです。 内部での解決ができない場合、当事者は Fair Work Commission(公正労働委員会)に Stop Order (停止命令)を求めて申請できるようになります。従業員による雇用主に対する申請の場合は、雇用主が従業員の通信拒絶権の行使に対し、科した罰則を停止する命令を求める申請です。他方、雇用主による従業員に対する申請の場合は、従業員の不当な連絡対応の拒絶の禁止を求める申請となります。 停止命令に違反すると、最大 60 penalty units (2024年5月現在は11,538.60ドルに相当)の罰金が科されます。 更に、通信拒絶権はGeneral Protection制度により保護される権利でもあります。つまり、従業員が通信拒絶権を行使したことに対して雇用主がペナルティー(懲戒処分・降格・解雇など)を科すと、従業員はFair Work CommissionにてGeneral Protectionの申立てが可能になるということです。   4.雇用主としての対応 この新しい法制度に的確に対応するには、既存の社内規定の確認と調整が必要です。雇用主はまず、勤務時間外における連絡についての社内規程や慣行を見直すと同時に、通信拒絶権について社内研修をおこなうことをお勧めします。また、現行の雇用契約書やジョブ・デスクリプション、社内規定を確認し、勤務時間外の連絡に対応することを従業員に不当に要求するような条項がないことを確認するべきです。   5.当事務所のコメント デジタル通信の普及やコミュニケーション手段の多様化とともに勤務時間が増加することを原因とした過労問題を背景に、通信拒絶権は2016年頃からヨーロッパ諸国、南米諸国、インドなどで導入されてきています。これらの多くの国々では、職場の生産性やコミュニケーションを損なうことなくこの権利が実現されています。 企業の対応策の例として、休暇中の従業員へのメールの自動転送や、スケジュール送信の利用などが挙げられます。他にも、メールに送信者が同日中に返信を期待していないことを示す文面を含むことや、通信拒絶権に関する事柄を研修に含むことなども行われてきています。 通信拒絶権とその対策に関してご相談があれば、ご遠慮なくお問い合わせください。   免責事項:本書の内容は一般的なものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。情報は外部の情報源から取得されたものであり、掲載日または将来における情報の正確性、また最新性を保証するものではありません。本書で取り上げた事項に関しては、別途ご自身の状況に即した法的アドバイスを得てください。