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オーストラリアの障害罪 ― 未成年者の障害事件

林由紀夫    26 Jul 2019

Q. 今朝、隣に住んでいる12歳の男の子のお母さんが血相を変えて家に来ました。なんでも、私の長男(14歳)と次男(9歳)が、その子に対し暴力をふるい、怪我を負わせたということです。その子は今、病院で手当てを受けているとのことですが、それほどひどい怪我ではないようです。その子のお母さんは、ともかく警察に訴えるとの一点張りです。長男に話を聞いてみると、ささいなことで言い争いになり、確かにその子を何回か「ぶん殴った」と言っていました。次男も近くにあった棒でその子の頭を数回叩いたということです。うちの子供たちはまだ幼く、ただの子供同士の喧嘩のように思いますが、このような場合、警察沙汰になってしまうのでしょうか?

 

A. あなたの長男と次男が隣人のお子さんに対して行った行為は、「正当防衛」などの特別な理由が無い限り、暴行罪に値する可能性があります。この点、あなたのお子さんたちに事件の詳細を聞く必要があると思います。ただし、たとえ暴行罪が成立したとしても、次男の方については10歳未満ですので、警察は彼を起訴することができません。つまり、10歳未満の子供は、刑事責任を問われないということです。

14歳の長男の方に関しては、そうではありません。つまり、警察は、長男の方を場合によっては暴行罪で起訴できるということです。ただし、14歳の未成年者ですので、通常の刑事事件における立証責任に加え、有罪にするためには、警察は彼が「ふざけ半分ではなく、本当に悪いことと知りつつ、その子を殴った」ということを立証する必要があります。この点についても、本人から詳細な話を聞く必要があると思います。

本件の場合、状況によっては、裁判沙汰にならずに済む可能性が多々あります。未成年者の犯罪については、言うまでもなく、当人の「更生」が最も重要と考えられています。そのため、Young Offenders Act 1997 (NSW) に基づき、今回の様な暴行事件に関しては、警察はまず本人に注意(warning)、勧告(caution)または当事者を交えた話し合いの場(conference)を設けるという方法が、本人の更生のために適しているかを判断します。もし適していると判断された場合には、裁判にはかけられず、上述の方法により事件が処理されます。ただし、この方法を得るためには、本人が、「有罪を認める」かわりに、隣のお子さんを確かに殴ったということを「確認する」必要があります。未成年者による全ての犯罪につき、この方法が適用されるわけではないので、留意する必要があります。なお、警察による未成年者の取り調べに関しては、親または成人支援者の同席が必要とされます。無論、未成年者であれ、黙秘の権利は認められています。

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オーストラリアにおけるDV ―  Coercive Control (継続的な精神的/経済的虐待)

Q: 私は結婚して約30年になります(NSW州在住)。その間専業主婦として家庭を守り、二人の子供達を育ててきました。子供達はすでに家を出て独立しています。最近夫との仲がぎくしゃくするようになりました。特に私が友人と出かけたり、好きな趣味に没頭しているのが気に食わないようで、夫は絶えず不機嫌で口もきいてくれない状況です。今最も困っているのは、今まで自由にデビットカードを使えていたのが、夫が急にそれを使えなくしてしまった事です。生活費は毎週現金で最低額を手渡されます。それだけでは私は何も出来ません。夫には何度も今まで通りデビットカードを使えるようにして欲しいと頼んでみても、「俺はお前が好き勝手するために働いているわけじゃない!」と怒って全く取り合ってくれません。これはDVじゃないですか?    A:現時点ではご主人の行為はNSW州ではDVとはなりません。ただし来年2月1日からは他州と同様にDVとして扱われ、そのような行為はれっきとした犯罪となります。これまでNSW州では、暴力を伴わない精神的虐待・金銭的虐待はDVとして認められていませんでした。最近の法改制により他の州と同様に来年2月1日から、現パートナー、又は、元パートナーに対するCoercive ControlもDVとして扱われるようになりました。 Coercive Control とは暴力を伴わず、精神的/経済的・金銭的虐待を継続的に行うことにより、常に相手を自分の監視/管理下におき、束縛しようとする行為の事です。 例として以下が挙げられています。   • 相手、又は、相手の扶養者が加害者に経済的に頼っている状況下において、生活に必要な資金を与えないこと • 相手の求職・就職・職の維持を不当に妨害・制限・管理しようとする行為  相手の収入や資産にアクセスする行為・これらを管理する行為(共同名義の資産を含む)や、「Coercive Controlをするぞ」と脅す行為もDVとみなされます。 現時点で相談者の置かれている状況を打開するためには、Family Law等の案件として煩雑な裁判の手続きが伴い、迅速に解決するのは難しいと思われます。ただし、Coercive Controlが実際のDVに発展する可能性が高い事から、現時点でも警察は親身に話を聞いてくれると思います。同じようにDV被害者の相談を受けてくれるNSW Domestic Violence Line – 1800 656 463等に連絡するのも良いと思います。  


オーストラリアの陪審員制度

Q:陪審員(Jury)として裁判に出席を求める召喚状が届き戸惑っています。仕事が忙しいので断ることは出来るでしょうか?また、断れなかった場合陪審員として何を求められ、何日間くらい拘束されるのでしょうか。 A:オーストラリアでは民事裁判で陪審員制度が使われる事はごく稀で、通常、陪審制度の適用は重大な刑事事件に限定されています。 まず陪審員の候補者はオーストラリア国籍で投票権のある人に限られ、その中からコンピューターでランダムに選ばれます。陪審員として裁判に出席(Jury Service)するのは国民の義務ですので、正当な理由なしに断ることは出来ません。この点重要なのは、適切な英語力が無い人は、陪審員になる資格がありません。これに加え、政治家、弁護士、警察官も陪審員にはなれません。妊婦、70歳以上の高齢者、現役の医者、歯医者、薬剤師はJury Serviceから免除されています。もし上記の職種(または理由)に当てはまるのであれば、送られてきた用紙に陪審員として出席できない理由を記入し、証拠(証明書など)をつけて返送してください。上記の条件を満たせない場合でも、健康上の問題や、陪審員を拒否できる他の正当な理由がある人は、その旨を記入した用紙と共に証拠を返送すれば、免除される場合があります。ちなみに「仕事が忙しい」は正当な理由にはなりません。その時点で免除されなくても、召喚日に裁判所に赴き裁判官に理由を説明し免除を求める事も出来ます。免除されなかった場合にはJury Serviceを全うしなければなりません。なお、当日裁判所に赴いても、実際に特定の裁判で陪審員として選ばれるか否かはその裁判を担当する弁護側または検察側の判断に委ねられます。 陪審員として選ばれた場合、何日くらい拘束されるかはその裁判によります。何か月にも及ぶ場合もありますし、当日被告が罪を認めてしまえば、陪審員の義務はそこで終了してしまいます。 陪審員制度は一般国民が裁判のプロセスに参加するという、いわば民主主義的な司法システムで、多くの国で採用されています。恐らくテレビや映画で陪審員制度がどういうものか、多くの人が既にご存知の事だと思います。実際に陪審員として選ばれれば、裁判官により、12人の陪審員として何をすることが求められているのか、何をしてはいけないのか等の説明がされます。陪審員には、例えば、裁判で提出された証拠に基づき被告には「殺意があったか否か」等の事実関係の判断のみが求められ、法律の解釈や適用等の判断は求められません。


オーストラリアにおける家庭内暴力 - DV・AVO

Q: コロナによる影響で自宅で過ごす時間が長いせいか、最近オーストラリアにおいてもドメスティックバイオレンス(DV)のケースが増えつつあり、裁判所も厳しい判決を下すようになったと聞いていますが、本当でしょうか?   A: まず、DVとは家族または親密な関係にある者同士の間で、暴力や脅迫により支配または威圧する行為を言います。DVは一般的に家庭内で起きることが特徴です。DVは身体的暴行に限らず、性的・心理的虐待、暴言、ストーカー行為、社会的・地理的隔離、財政的虐待(州によっては)、動物虐待等も含まれます。DVは他人に対する傷害事件と同じ犯罪行為ですが、安全が確保されるべき家庭内での暴力行為は、他の場合よりも重く扱われる傾向にあります。 DV行為の発生や継続を阻止するための措置(例えばカウンセリングや、コミュニティーサポート等)が特別に設けられていますが、実際にDVの危険に直面しているような緊急事態では、被害者は往々にして警察に通報する事になります。通報に応じた警察官は、「DVが行われた」という十分な疑いがあれば警察官は住居に立ち入り、加害者をその場で逮捕する事が出来ます。通常警察官は令状(Warrant)なしには住居に立ち入ることは出来ませんが、DVの場合にはその調査や対応に関し、より広範囲な権限を与えられています。その理由はDVが起こる頻度が高く、緊急を要する対応が必要な場合が多いからだと思われます。 DVにより加害者が逮捕された場合、一般的に加害者は傷害罪(assault)で起訴される事になり、その結果、刑事裁判が行われる事になります。刑事裁判において有罪が確定すれば、刑事罰の対象となり、前科が付く事になります。但し、情状酌量の余地があれば、裁判所は前科がつかなくなるような判決を下す事もあります。最近「裁判所が厳しい判決を下すようになった」と言うのは、この点に於いてです。つまり過去、DVにかかわる傷害事件においては、加害者が初犯(犯罪歴が無い)で、被害者に主だった外傷もなく、かつ、DV行為が一過性のもので、加害者が悔い改めていれば、往々にして裁判所は寛大な(前科をつけない)判決を下していました。 しかしながら、近年においては加害者が初犯の女性であって、被害者に主だった外傷もないような状況でも、犯罪歴がついてしまうという判決が出ています。例えば口論の挙句、横たわっていた筋骨隆々の彼氏に馬乗りになり、携帯電話を無理やり奪い取ろうとした女性の行為でさえ有罪となり、犯罪歴がついてしまったという事件もありました。  


オーストラリアにおける新型コロナ規制 ― ソーシャルディスタンス

Q:コロナウイルスにより、外出禁止、営業停止、ソーシャルディスタンスの遵守といった法令が出され、違反者には罰金が科せられると聞きました。でも、外出している人や営業している店は多いですし、ソーシャルディスタンスを守っていない人も多いように思います。本当に罰せられるのでしょうか?   A:2020年3月31日付で、Public Health (COVID-19 Restrictions on Gathering and Movement) Order 2020という法令が発布されました。コロナウィルスの拡散を防ぐために作られた法令なのですが、内容はやや複雑でわかりにくく、しばしば批判の対象になっているようです。違反者はには「最大6か月の懲役、或いは最大$11,000の罰金、あるいはその両方」が科せられると定められています。 この法令は主に“移動に関して”、“特定の場所の閉鎖”、“集会に関して”、 “土地・建物・施設のオーナー及び占有者の義務”という4つの部分から成っています。 “移動に関して”は、簡単に言うと、「正当な理由なく、外出してはならない」という命令です。同法令のSchedule 1に“正当な理由”が羅列されていますので、見てみてください。例えば買い物や通勤・通学、運動、医療上の理由は“正当な理由”に該当するとされています。 “特定の場所の閉鎖”では、閉鎖されなければいけない場所が示されています。例えば酒場、飲食店(イートイン)、エンターテイメント・アミューズメント・レクリエーション施設、ネイル・ビューティーサロン、タトゥーパーラー、マッサージ店、等々。 “集会に関して”は、「公的な場所において、2人を超える人数が集まってはならない」と示されています。但し、同法令6(2)項で例外も多く設けられています。例えば仕事、看護、法律上の必要がある場合は集まっても良いことになっています。更にSchedule 2で示されている“必要不可欠な集まり”(例:交通機関、病院、刑務所、裁判所、小売店、オフィス、学校)も許可されています。 “土地・建物・施設のオーナー及び占有者の義務”として「屋外であれば500人以上、屋内であれば100人以上を同時に集まらせてはならない」、また、「1人当たり4平米のスペースが確保されなければならない」とされています。この義務は小売店にも適用されます。小売店の入口に「一度に5名まで入店可」などと書かれているのは、このためです。但し住居や、Schedule 2に示された“必要不可欠な集まり”については、これらの義務を負わないとされています。 この法令は2020年の6月29日まで有効とされていますが、政府の判断によってはそれ以前に失効することも、逆に延長される事もあります。いずれにせよ、一日も早く、安心して過ごせる日々が戻ってくることを祈るばかりです。  


オーストラリアの職場におけるセクハラ

Q:同僚の男性から好意を持たれてしまい、毎日のように私のデスクに花束やラブレターが置かれています。正直言って、大変不気味です。こんなことをされても困ると相手に伝えたにも関わらず、やめてくれません。昨日のラブレターには「今月末に一泊旅行でキャンベラに行きませんか」などと書かれていました。身の危険すら感じはじめ、怖くなってきたので上司に相談したところ、取り合ってくれません。この同僚男性の行為は、セクハラにはあたらないのでしょうか?(27歳女性会社事務員)   A:職場におけるセクハラは、連邦法Sex Discrimination Act 1984及び、NSW州法Anti-Discrimination Act 1977によって禁じられています。法律上のセクハラの定義は、連邦法もNSW州法も同様で、「被害者に対する“Unwelcome”な性的行動または要求で、且つ、その状況下で、『そうした行為は、この被害者の感情を損ねたり、屈辱又は脅威を与えたりするのではないか』と理性的な第三者により、考えられるような行為」です。 この定義をもう少し詳しく見てみますと、まず、その行為は被害者にとって“Unwelcome”であることと定められています。これは当然のことのようですが、その行為をUnwelcomeであると感じるか否かは、被害者の主観的な判断の問題であるため、被害者の例えば「やめてほしい」といった言動が、重要視されます。 次に、その行為が“性的”であることと定められています。判例によると、“性的”とされるものの範囲は大変広く、ボディタッチは勿論のこと、下ネタの会話、性的なジョーク、容姿についてのコメントなども“性的”と判断され得ます。ラブレターは、その内容を実際に見てみないと判断できないものの、泊りがけの旅行などに誘ったりする事は、“性的”の範囲に入ってくる可能性が高いと考えます。 そして3つ目の「その状況下では、一般的に、『そうした行為は、この被害者の感情を損ねたり、屈辱又は脅威を与えたりするのではないか』と考えられる」という要件は、客観的な社会通念上の判断の問題になります。今回のケースでは、被害者が恐怖を感じた上、相手にやめて欲しいと伝えたにも関わらず、これが継続しているという状況ですので、3つ目の要件も満たすものと判断できます。 雇用者である会社は、こうしたセクハラが起きないように努め、また、実際にセクハラが発生した際には、然るべく対処をする責任があります。もう一度上司に相談し、その旨をしっかりと伝えて下さい。それでも対処してくれない場合には、Australian Human Rights Commissionなどの公的機関に相談してください。また、今回のケースはセクハラにとどまらず、刑法上のストーキング被害へと発展する可能性もあります。同僚の男性の行為がどうしても止まないようでしたら、警察への相談も必要になってくるかも知れません。


オーストラリアにおける子供の虐待

Q: 現在、私は12歳の娘(前夫との間の子) と内縁関係の夫と3人で暮らしています。 最近になって、夫は、「娘のしつけがなっていない」と度々娘を厳しく叱ったり、怒鳴ったりするようになりました。彼の態度に私も娘も怯えきっています。確かに娘の態度にも悪いところがありますが、夫の言動は常軌を逸しているように思えます。状況がエスカレートするのは時間の問題で、夫はいずれ娘に手を挙げるのではないかと心配しています。どうすればいいでしょうか?   A: こうした夫の常軌を逸した「しつけ」はもはや「しつけ」ではなく、虐待に相当しうると考えます。たとえ実際に暴力を振るわれていなくても、いわゆる「言葉の暴力」も十分虐待にあたるからです。もしも娘さんだけではなく、夫が相談者に対しても同じような振る舞いをするようであれば、それは夫によるDVに値します。NSW州においては、1998年に施行された「Children and Young Persons Act」という法律により、子供を虐待から守るため、「Department of Family and Community Services」(以下FACS)に様々な権限が与えられています。相談者又は娘さんは、直接FACSに助けを求める事が出来ます。FACSにはHelpline(Child Protection Helpline―132 111)が設けられていて、容易に電話相談ができるようになっています。また、子供の虐待が疑われる場合には、家族の一員でなくてもFACSに通報することができます。FACSへの通報は、後に名誉棄損などの問題にさらされる心配が無いよう、全て極秘扱いされます。尚、子供と接触がある教師、医者、社会福祉サービスの職員などは、子供の虐待が疑われる場合、FACSへ速やかに報告する義務があります。無論、緊急を要する状況においてはDVとして警察に助けを求めることも可能です。 相談があった場合、FACSは必要な調査を行い、その結果、状況に応じ子供にとって最も適切な対応策(例えば、子供を含む当事者へのカウンセリングやサポートグループの手配など)を講じる事になります。事態がより深刻だと判断されれば、FACSにより子供が保護され、一時親元から離される場合もあります。もし調査の結果、刑事事件に発展する可能性が高いと判断されれば、FACSは警察の介入を必要とします。 ご承知のように、特に最近日本においても「子どもの虐待」に関するニュースが頻繁に報道され、大きな社会現象となっているようです。オーストラリアも例外ではありません。