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ビザの取り消し①

林由紀夫    08 Mar 2018

Q:私は昨年、457ビザで日本から派遣されてきた会社員です。先日、酔った勢いで人を殴ってしまい、傷害罪で起訴されてしまいました。有罪になるとビザがキャンセルされてしまうかも知れないと友人から聞いたのですが、本当でしょうか?(25歳会社員=男性)

 

A:昨今、こうしたケースにおいて、移民局は、簡単にビザをキャンセルする傾向にあります。また、去年の末には、Department of Home Affairsという新たな省が設立され、オーストラリア保安情報機構、連邦警察、連邦検察に並んで、移民局もその省の一部となり、オーストラリア連邦政府の移民に対する考え方は、安全保障の観点に、今まで以上に重きを置くようになったようです。本コラムでは、敢えて「移民局」という呼称を使用します。

 

オーストラリア移民法第501条の(2)(a)項には「移民局は、当該ビザ保持者が501条6項に示される“Character Test”に不合格となる事が疑われる場合、そのビザをキャンセルすることができる」と記されています。

 

殺人やテロなどの重大な犯罪を犯した場合にはCharacter Test不合格になるのはもちろんの事ですが、それに加えて、同法501(6)(c)には「当該ビザ保持者の、過去及び現在の犯罪行為と、過去現在の一般行為とを考慮に入れた上で、当該ビザ保持者がGood Characterではないと(移民局が)判断できる」場合にも、Character Test不合格となり得る、と記されています。つまり、Good Characterか否かは、実質的に、移民局の裁量に委ねられるという事です。一つ事例を掲げたいと思います。

 

実際にあったケース

就労ビザを持つ男性が、喧嘩に巻き込まれ、相手と揉み合いになった所、咄嗟に近くにあった果物ナイフを手に取り、相手の手に約1㎝の切り傷を負わせてしまった。同氏はReckless Woundingという罪状で起訴され、正当防衛を主張するも認められず、有罪が確定しました。Reckless Woundingは最高刑が懲役7年となる重罪であるにも関わらず、裁判官は大いに情状酌量の余地ありとして、600ドルの罰金及び9か月のGood Behaviour Bondのみという、Reckless Woundingに関しては、非常に軽い刑罰を言い渡しました。しかしながら、この有罪判決の数か月後、同氏のビザはBad Characterを理由にキャンセルされ、同氏は不法移民収容所(Detention Centre)に強制連行される事になりました。

 

対応策について

今回のご相談者の場合、有罪が確定してしまうと、上述の事例のように、ビザが取り消されてしまう可能性は大いにありえます。まだ起訴の段階にあるようですので、裁判で無罪の判決を勝ち取るべく最善を尽くすべきでしょう。但し、有罪となってしまい、その理由でビザが取り消されたとしても、その移民局の判断に対しAdministrative Appeals Tribunalという、いわば行政裁判所に不服訴えをすることができます。そうする事により、ビザの取り消しを無効にできる場合もあります。

 

次回のコラムでは、上記事例の男性が移民局に連行された特殊な背景とAdministrative Appeals Tribunalへの不服訴えの手続きにつきいて書きます。

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ビザの取り消し②

A: 先月の本コラムで、現行の移民法によると「ビザ保有者が“Character Test”に合格しないと判断される場合、移民局はビザを剥奪する権限を有する」という事と、更に、「その判断は事実上、移民局の自由裁量に委ねられてしまう」事も説明しました。この点において、傷害罪における有罪判決は、ビザ剥奪の判断をする根拠になってしまいます。   通常、移民局からのビザ剥奪を示唆する通知では、ビザ保有者に対し、期限内(通知が郵送された場合には、通知書の日付から7営業日以内)に抗弁する機会が与えられています。このタイム・リミットは厳守しなければなりません。 まずは早急に、弁護士などの専門家に相談し、移民局にしかるべき抗弁をするべきです。ただし、抗弁書を作成するに当たり一つ判断を要するのは、どの程度の抗弁書を作成するのかということです。というのも、日本、オーストラリアを問わず、移民局のような役所が一旦ビザの取り消しに動き出すと、その判断を覆すことができる余程重大な事実関係または証拠を提出できない限り、その段階での判断を覆すことは非常に難しいのが現実だからです。   移民局がビザ取り消しの判断を下した場合、通常7営業日以内に「行政裁判所(Administrative Appeals Tribunal)」へ不服申し立てを行うことができます。このタイム・リミットも厳守しなければなりません。行政裁判所は、移民局が考慮した全ての資料や取消理由、移民局には提出していない対象者からの新たな証拠を一から考慮することができ、移民局と同様の立場で「Merit Review」という事で、ビザを取り消すか否かの判断をする権限が与えられています。そのため、場合によっては、移民局によるビザ取り消しの判断は回避できないという前提にあえて立ち、移民局にはある程度の抗弁だけを行い、残りは行政裁判所に新たな証拠として提出する方が、行政裁判所によりビザ取り消しの判断を覆してもらえる可能性がより高くなるのではないか、という事です。 つまり、移民局が考慮した全く同じ資料や証拠を持って、行政裁判所に判断をしてもらうよりも、新たに提出する有効な証拠があれば、それを理由に、移民局の判断を覆すことが容易になるのではないでしょうか。無論、この判断は提出できる新たな証拠によります。   なお、一旦ビザがキャンセルされてしまうと、ブリッジング・ビザが発給されない限り、対象者は不法滞在者となり、いつでも不法移民強制収容所に勾留されてしまう可能性があります。実際にあったケースですが、ビザを取り消された人の代理として、ブリッジング・ビザ申請のため、移民局に連絡を取ると、「本人が窓口に来て申請しなければならない」と説明を受けました。後日、弁護士が本人と共に窓口に行き、「ビザが取り消されたので、ブリッジング・ビザの申請に来た」と伝えたところ、付き添っていた弁護士の面前でこの男性はすぐさま待機していた3人の職員に囲まれ、拘束され、そのまま不法移民強制収容所に送られてしまいました。こうした例もありますので、できるだけ早い段階で専門家に相談することをお勧めします。