Q: 今年60歳になる父がいます。母は10年前に既に他界しています。この父がここ数年、近所に住んでいる女性と親しい仲になっており、昨日ついに「俺はこの人と再婚するつもりだが、どう思うか?」と言って来ました。父が再婚するにあたり、法律上、遺産相続に関してどういった影響があるのでしょうか?
A: 相続法は州により異なるところがありますので、以下はNSW州の相続法についてご説明します。
一般的には、結婚・再婚をしてしまうと、それ以前に作られたお父様の遺言状が無効になってしまいます。つまり、もし再婚後に新しい遺言状を作らずにお父様が他界してしまった場合、遺産相続は相続法に従い決められます。この場合、再婚相手が遺産の半分以上を相続することとなります。
しかし、もしもお父様がこの女性との結婚を思いとどまったとしても、お二人が2年以上の「内縁関係」にあった場合や、その内縁関係がRelationship Registerに登記されていた場合には、正式に結婚をしていなくても、この女性には配偶者としての相続権がある事になります。
もしお父様が遺言状において、例えば「財産の100%を娘に遺す」としたとしても、上記のように内縁関係が認められる場合には、この女性にはFamily Provision(日本での遺留分に似た制度)に基づき、遺産の一部に対して請求権を持つことになります。つまり、遺言状に基づき、故人は自由にその遺産を分配できない可能性があるといことです。従って、お父様がその女性と結婚されたり、内縁関係にあった場合には、あなたへの相続に対する影響は回避できないと思ってください。
もし、お父様とこの女性の間に新たに子供が生まれたりしますと、あなたの法廷相続割合は更に少なくなります。ちなみにその女性に、お父様との血縁関係が無いお子さんがいて、お父様と同居し、且つ扶養家族として生活をするような場合、その子にもFamily Provisionに基づきお父様の遺産に対して請求権が生まれます。
尚、親族に限らず、お父様がお亡くなりになった時点でお父様と「Close Personal Relationship」にある人であれば、Family Provisionの請求権が存在する事になります。但し、請求権が認められるか否か、また、どの程度認められるかという点に付いては、最終的には裁判所が決める事になります。
もう一つ重要なポイントとして、もしお父様がその方と結婚した後に、例えば認知症などを患い、判断能力が欠如するような事になった場合や、事故に遭った場合、(事前に委任状等が作成されていない限り)それらに関する医療判断については、その再婚相手の判断が子供たちよりも優先されてしまう事になります。そうした際の争いを避けるためにも、今のうちに委任状を作成されるよう、お父様に勧められては如何でしょうか。