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遺言書 ― Family Provision(オーストラリアの遺留分制度)

林由紀夫    27 Nov 2018

Q:私には3人子供がいるのですが、次男には遺産を何も遺さないとする遺言書を書こうと思っています。しかしオーストラリアにも日本の遺留分制度と似た、Family Provisionという制度があり、どんなに遺言書でその子の相続を廃除しようとしても、それができない可能性があると聞きました。こうした可能性を避けるには、どうしたらいいのでしょうか?

 

A:Family Provisionとは、「遺言書に相続の権利が明記されていない場合でも、故人の子供や扶養家族等は、遺産の一部を相続できる権利がある」というものです。但し、日本の遺留分制度と違い、明確な分配比率は定められていないため、それぞれの状況に基づき、どのような分配が妥当かを決める必要があります。この点、協議で合意が得られない場合には、裁判所で争われることになります。

裁判所はFamily Provisionに関する判決を出すにあたり、様々な事柄、状況、社会通念を考慮に入れます。

まず、遺言書の記す遺産分配が、公平・公正な分配であると判断される場合には、Family Provisionのクレームのリスクは下がります。この点、何故、次男に対し遺産を何ら遺したくないかという理由が重要となるでしょう。例えば、その理由が「生前、次男には事業のために多額の資金援助をした」「住宅購入のために頭金を出してあげた」等の理由があれば、次男のFamily Provisionを要求する権利は弱くなると考えられます。そのような理由がある場合には、直接遺言書、又は別紙にその理由を明記し、残しておくことをお勧めします。

また、遺産総額が少ないほど、裁判所はFamily Provisionのクレームを認めにくくなる傾向にあります。

財産を他の子供たちに生前贈与することも可能です。但し、現金以外の生前贈与の場合には、税務上(印紙税を含め)問題になる可能性がありますので、注意が必要です。また、Family Provisionの配分を決めるにあたり、場合によっては生前贈与も考慮に入れられてしまう可能性もあります。

死亡時の生命保険金は遺産ではないので、相続手続きとは別に、指定された受取人の手に渡ります。また、Superannuationについても、受取人を指定しておけば、生命保険と同様に、遺産の一部になることなく指定された人が受領できます。これらを活用することも可能ですが、生前贈与と同じく、これらもFamily Provisionの配分の考慮に入れられてしまう可能性があります。

結論として、客観的に公平・公正な理由が無い限り、Family Provisionの権利を持つ相続人を完全に相続から廃除するのは難しいということになります。

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オーストラリアにおける遺産相続実務の基礎知識

オーストラリア国内に資産を所有したまま人が亡くなると、多くの場合、遺産相続に関して一定の法的・実務的手続きを行う必要が生じます。   まず最初に確認すべき事項は、故人が遺言書(Will)を残しているかどうかです。遺言書が存在する場合、通常はその中で、遺産相続手続きを統括する責任者として「遺言執行者(Executor)」が任命されています。相続手続きは、原則としてこの遺言執行者が中心となって進めることになります。   一方、遺言書を残さずに死亡した場合、遺産は法律で定められた法定相続分および法定の優先順位に従って分配されます。この場合、遺族の中から、遺産相続実務を担当する責任者として「遺産管理人(Administrator)」が選任されます。   次に確認すべきは、相続および分配の対象となる遺産の内容です。遺産の種類や保有形態によっては、裁判所に対して遺言書の検認(Probate)の申立て、または遺産管理分配許可証(Letters of Administration、以下「LOA」)の発行申請を行う必要があります。   プロベートやLOAの申請は裁判所での正式な手続きとなるため、弁護士に手続きの代行を依頼するケースが一般的です。もっとも、遺産の内容によっては、プロベートやLOAを取得することなく相続手続きを進められる場合もあります。   プロベートまたはLOAを取得した後(あるいはそれらが不要な場合)には、各遺産の具体的な相続・分配作業に移行します。例えば、金融機関との連絡、銀行口座の解約や残高の送金、不動産の売却や名義変更など。相続手続きの責任者が十分な英語能力を有していれば、遺言執行者または遺産管理人が自ら金融機関や不動産業者とやり取りを行うことも可能です。   しかし、相続手続きの責任者が日本在住であったり、英語での実務対応に不安がある場合には、これらの遺産分配実務についても弁護士等の代理人に依頼することが現実的かつ有効な選択肢となります。   いずれにしても、どのような相続手続きが必要となるのかを早期に見極めるためにも、できるだけ早い段階で、オーストラリアの遺産相続実務に精通した弁護士に相談し、適切な助言を受けることが重要です。


家族法―オーストラリアで婚約破棄 - 婚約指輪は返す義務があるのか?

Q:彼の浮気が原因で婚約を破棄する事にしました。元婚約者からは「婚約指輪を返せ」と言われています。返さなければいけませんか? A:婚約を破棄するという行為は「結婚する約束」を破る事になりますが、オーストラリアではMarriage Actにより、婚約破棄に起因する社会的・経済的損失に関連する損害賠償を請求する事は出来ません。ただし、これには婚約指輪等、結婚を前提とした贈り物は含まれません。婚約指輪を返す必要があるかは、その状況によります。まず、婚約はしたが同居していないカップル、またはDe factoとしての要件を満たしていないカップルの場合には、一般論として次のような原則が適用されます。①結婚を前提に指輪を贈られた女性が、贈られた条件の履行を拒否した場合、指輪を返還しなければならない。②男性が結婚の約束の履行を拒否した場合、法的な正当性がなければ、指輪の返還を要求することはできない。③婚約が双方の合意によって解消された場合、合意がない限り、婚約指輪など結婚を前提とした贈り物は、それぞれ相手に返還しなければならない。④男性側に暴力や浮気などの行為があった場合、女性は結婚の約束を拒否する「法的正当性」を主張することができ、婚約指輪などを返さなくても良い可能性がある。 次に、De factoの関係にあったカップルが婚約を解消し別れた場合には、婚約指輪等の返還はFamily Law Actの適用を受け、婚姻財産として分配対象の一部となります。つまり、誰が婚約指輪を所有できるか判断するには、次の要素が考慮されます。①婚約指輪の価値及び全婚姻財産の価値;②同居年数;③婚姻財産構築に関するお互いの金銭的・非金銭的な貢献度;④別れた後のお互いの将来的/経済的なニーズ。婚姻財産分配における指輪の価値は購入価格ではなく一般的にそれより低い市場価格になります。従い、婚約指輪がよほど高価なものでない限り、それは、お互いの個人的所有物として、分配対象の婚姻財産から外される場合が多くあります。 また、婚約のお祝いとして、元婚約者の親からプレゼントされた指輪は結婚を条件とした「Conditional Gift」であり、婚約解消に伴い、その返還を求められる事は十分考えられ、返還しなければならない可能性があります。 よって、相談者からはより詳しい背景を聞く必要があります。  


オーストラリアで離婚・財産分与 ― 親からの資金援助、個人保証の扱いは?

Q: オーストラリアで結婚して11年になります。現在、妻と離婚を前提とした婚姻財産の分配について話し合いをしています。結婚して2年後に、現在住んでいるアパートを購入する際、妻の父より20万ドル近く購入資金の援助を受けました。今になって義父がその元本及び利子の支払いを請求して来ました。3年前に義父の会社が資金難に陥った時、銀行からの借り入れの担保のため、私は義父と連帯して個人保証人になりました。その保証で今回の20万ドルを帳消しに出来ないでしょうか?また、離婚が決まっている今、妻一家とは今後一切かかわりを持ちたくないので、個人保証は取り消してもらう事は可能ですか? A:  お義父様は9年前に行った約20万ドルの資金援助は、貸付金であったと主張されているのだと思います。その主張の根拠となる証拠、例えば契約書や合意書、場合によっては貸付を裏付ける手紙やメールのやり取りはありますか?ある場合には、その内容を確認する必要があります。そのような証拠がない場合には、相談者はどのような意図でその援助を受けたのかが重要になります。 もし資金援助がお義父様からの贈与であった場合には、返済する義務はありませんが、資金援助が贈与であったという事を立証しなければなりません。例えば、その当時のお義父様とのやり取りにおいて、「この資金は返す必要はないから、自由に使ってくれ」等といったものが残っていれば、贈与を立証する上で有利です。他方、あなたからお義父様に対し、「資金援助有難うございました。将来必ずお返しします」等というようなやり取りがあれば、資金援助は貸付金であったという色彩が強くなります。また、資金援助を受けてから今まで金利など一切お義父様に支払っておらず、また、お義父様から何ら金利払いや元本返済の催促がなかったとすれば、資金援助は贈与であった可能性が高くなります。従い、お義父様からの資金援助が貸付または贈与であったかは、それら証拠となる事実関係を吟味する必要があります。 個人保証の問題は資金援助とは別々に考えるべきです。相談者が個人保証をしている相手は銀行なので、たとえお義父様が帳消しにするといったところで、あなたの保証人としての銀行に対する責任は消えません。個人保証から解除されるためには、その個人保証書を確認する必要がありますが、銀行が扱う一般的なものであれば、おそらく銀行の同意なく個人保証を外すことは出来ないと思います。通常、銀行は個人保証を外しても、十分な貸付金に対する担保が存在しない限り、同意しないでしょう。従い、銀行に事情を説明し、個人保証解除の打診をする事をお勧めします。


オーストラリアの遺産相続―Blended Family

Q:私は再婚し、今は現夫との間の小学生の子供二人、前夫との間の息子(16歳)と5人で生活しています。最近夫と16歳の息子の仲が上手く行っておらず、息子は家を出るとまで言い出しています。私に万が一の事があった場合、16歳の息子にも他の二人の子同様に相続権利があるのか心配です。私の主な財産としては、私名義の銀行預金、スーパーアニュエーション、現在住んでいる家、数年前に投資物件として買ったアパートがあります。不動産は共同名義です。16歳の息子にも私の財産を相続させることは出来ますか?  A:相談者のように夫婦の一方あるいは両方が再婚で、前の結婚相手との間に子がいる家族構成のことを一般的に“Blended Family”といいます。こうしたBlended Familyにおいては、相続が大変複雑になる可能性があり、場合によっては相続争いに発展してしまう事があります。 初婚同士、または再婚であっても前の結婚による子供がいない夫婦の場合は、「一方が死亡したら生存している配偶者が全て相続する。双方ともに死亡したら、子らが相続する」という遺言書を双方で遺すのが一般的で、相続が問題になることは稀です。しかしBlended Familyの夫婦が同様の遺言書を遺してしまうと、夫婦の一方が死亡した場合、生存した配偶者がすべての遺産を相続する事になり、その後その遺産をどう相続させるかは、その配偶者によって決められます。つまり、その配偶者は実子以外の子の権利を排除し、「全ての遺産は実子が相続する」という内容の遺言書を遺せる事になります。 相談者の場合、例えば「私が死亡したら、私の遺産の16.6%(内訳として50%は配偶者、残り50%を3人の子らが均等に相続する)を前夫との間の子に相続させる。」としておけば、この様な状況を回避する事は出来ます。しかしながら、その16.6%をどのように相続させるかという問題は残ります。例えば、遺産の16.6%相当の価値の分配のためには不動産の売却が必要になってしまうかもしれません。遺言書の中で、「配偶者が生存中または、自宅を売却するまで、無償で自宅に住まわせる」というような権利を配偶者に残す事は可能です。 なお、留意しなければならないのは、、不動産の共同名義の登録が、Joint Tenancyというものであれば、自動的にその権利は遺された共同名義者に移ってしまいます。 一般的に、アンフェアと思われる遺言書に関しては(場合によっては遺言書の無い法定相続の場合であっても)、“Family Provision”という日本での遺留分制度に似た制度がオーストラリアにもあり、除外されたと思う相続人は、その権利が保証される場合があります。相続争いのリスクを出来るだけ避けるために、専門家のアドバイスを十分に受けた上で遺言書を用意することを強くお勧めします。


オーストラリアの遺産相続 一 連れ子の相続権

Q:つい最近、30代の娘が交通事故で死亡してしまいました。娘は再婚して、前夫との間の8歳の子供と3人で住んでいました。娘の遺産は、現夫と共同名義で購入した自宅アパート、共同名義の銀行預金及び株式が少し、単独名義の銀行預金、あとはSuperannuation と死亡保険がいくらか出るようです。私は娘の現夫が孫には一切遺産を渡さず、全て自分が取ってしまうのではないかと心配しています。恐らく孫は前夫に引き取られることになると思います。孫は娘の遺産を相続できるのでしょうか。娘は遺言書を残していません。 A:まず最初に、故人の資産のうち、お孫さんが相続できる可能性のある“遺産”はどれか判断する必要があります。共同名義のアパートに関しては、もしその所有権が“Joint Tenancy”という事であれば、自動的に現夫名義に変更されてしまいます。(その所有権形態が”Tenancy in Common”であれば、自動的な名義変更はされません。)共同名義の株式及び銀行預金についても同様です。従い、そのような共同名義の資産については娘さんの遺産ではなく夫の資産として考えられますので、お孫さんの相続の権利は原則的に無いことになります。単独名義の銀行預金預金に関しては、遺産の一部であると考えて良いと思います。 Superannuationが遺産となるか否かは少し複雑です。もしも故人がBinding Death Benefit Nominationという方法でSuperannuation  Fundにあらかじめ受取人を指定していれば、これは相続とは関係なく、その受取人に支払われることになると考えます。もしも誰も受取人を指定していなければ、これは遺産として分配されることになる可能性が高くなります。死亡保険もこれと似て、原則的に、あらかじめ指定された受取人に支払われることになります。 NSW州では、本件の様に再婚の場合で前の配偶者との間の子がいる場合の法定相続は、①:故人の私物(Personal Effects)は配偶者が相続。②:約$500,000までは配偶者が相続。③:遺産総額から①と②を差し引いた残額を、配偶者と子で等分、です。 もしその結果、お孫さんの相続分の遺産が全くなかったり、妥当でないと判断された場合には、Family Provision(日本の遺留分に似たもの)という制度の下にお孫さんは妥当な遺産の分配を求める事が出来ます。もし、合意に至らなかった場合には裁判で争う事になります。 遺言書がない場合、未成年者(18歳未満)の相続分は、恐らく、18歳になるまで公的機関(NSW Trustee and Guardian)に供託されることになると思います。  


オーストラリアの遺産相続 - 遺言執行人の役割

Q:最近、友人が亡くなり、その遺言書で私がExecutor(遺言執行人)として任命されていました。私はExecutorとして、どんな事をしなければならないのでしょうか? A:Executorは遺産相続手続きを行う上で最も重要な役割を担います。その責務はかなり重く、個人的な責任を負わされる事になりますので、法的にその任命を拒否する事も可能です。その場合は新たなExecutorが任命される事になります。その任命を受ける事を前提として、すぐに着手しなければならない作業は多くありますが…まずは葬儀人(Funeral Director)に連絡しましょう。死亡証明書取得等必要な手続きはFuneral Directorに依頼するのが一般的です。どのような葬儀をおこなうかは遺言書に示されている故人の希望を踏まえ、遺族と話し合って決めるのが良いと思います。遺言書に相続人として記された方々には確実に連絡をして、自分が相続に関する手続きを行うExecutorとして任命された旨、伝えなければなりません。 死亡証明書が発行された後、次はこれをもって、ATO、銀行、保険会社、Medicare、Superannuationファンド、電気・ガス・電話会社等々に死亡通知を出します。 次は遺産探しです。故人が遺言書と合わせて資産目録を用意していれば良いのですが、そうでなければ、預金、株式、Superannuation、不動産や車など、どういった遺産が存在するのか確認する必要があります。遺言書の内容によっては、家具などの私物も細かく相続対象となっていることもありますので、詳細な遺産リストを作る必要が出てくるかもしれません。Executorとしてそれら資産を売却し現金化する事が求められる可能性もあります。 遺産内容が把握出来たら、次は Probateの取得手続きを始めます。オーストラリアで遺言書に従って遺産相続手続きを行うためには、裁判所で “Probate” の申請をおこない、裁判所より「遺言書に従って相続手続きを行っても良い」という「許可」を得ることが必要になります。例外的なケースもありますが、一般的に故人の銀行預金を引き出したり、動産・不動産の売却や名義変更等をするためにはProbateが必要です。このProbate申請は複雑ですので、弁護士に依頼するのが無難です。 Probateが得られたら、遺産を遺言書の定めに従い、相続人らに分配します。遺産相続に関し、税務が生じることもありますので、会計士に相談するのも忘れずに。 上記以外にもExecutorの役割には色々ありますが、遺言書の内容や遺産によってはExecutorの作業はひどく複雑になることがありますので、早い段階で相続法務を扱う弁護士に相談するのが良いと思います。