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遺言書の有効性につき争いが起きたり、家族や故人の被扶養者が相続権を主張したりする場合があります。私たちは遺言執行者、相続人、または相続権を主張したい人に対し、アドバイスを提供し、代理人を務めます。

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相続・遺言書

オーストラリアの遺産相続―Blended Family

Q:私は再婚し、今は現夫との間の小学生の子供二人、前夫との間の息子(16歳)と5人で生活しています。最近夫と16歳の息子の仲が上手く行っておらず、息子は家を出るとまで言い出しています。私に万が一の事があった場合、16歳の息子にも他の二人の子同様に相続権利があるのか心配です。私の主な財産としては、私名義の銀行預金、スーパーアニュエーション、現在住んでいる家、数年前に投資物件として買ったアパートがあります。不動産は共同名義です。16歳の息子にも私の財産を相続させることは出来ますか?  A:相談者のように夫婦の一方あるいは両方が再婚で、前の結婚相手との間に子がいる家族構成のことを一般的に“Blended Family”といいます。こうしたBlended Familyにおいては、相続が大変複雑になる可能性があり、場合によっては相続争いに発展してしまう事があります。 初婚同士、または再婚であっても前の結婚による子供がいない夫婦の場合は、「一方が死亡したら生存している配偶者が全て相続する。双方ともに死亡したら、子らが相続する」という遺言書を双方で遺すのが一般的で、相続が問題になることは稀です。しかしBlended Familyの夫婦が同様の遺言書を遺してしまうと、夫婦の一方が死亡した場合、生存した配偶者がすべての遺産を相続する事になり、その後その遺産をどう相続させるかは、その配偶者によって決められます。つまり、その配偶者は実子以外の子の権利を排除し、「全ての遺産は実子が相続する」という内容の遺言書を遺せる事になります。 相談者の場合、例えば「私が死亡したら、私の遺産の16.6%(内訳として50%は配偶者、残り50%を3人の子らが均等に相続する)を前夫との間の子に相続させる。」としておけば、この様な状況を回避する事は出来ます。しかしながら、その16.6%をどのように相続させるかという問題は残ります。例えば、遺産の16.6%相当の価値の分配のためには不動産の売却が必要になってしまうかもしれません。遺言書の中で、「配偶者が生存中または、自宅を売却するまで、無償で自宅に住まわせる」というような権利を配偶者に残す事は可能です。 なお、留意しなければならないのは、、不動産の共同名義の登録が、Joint Tenancyというものであれば、自動的にその権利は遺された共同名義者に移ってしまいます。 一般的に、アンフェアと思われる遺言書に関しては(場合によっては遺言書の無い法定相続の場合であっても)、“Family Provision”という日本での遺留分制度に似た制度がオーストラリアにもあり、除外されたと思う相続人は、その権利が保証される場合があります。相続争いのリスクを出来るだけ避けるために、専門家のアドバイスを十分に受けた上で遺言書を用意することを強くお勧めします。


相続・遺言書

オーストラリアの遺産相続 一 連れ子の相続権

Q:つい最近、30代の娘が交通事故で死亡してしまいました。娘は再婚して、前夫との間の8歳の子供と3人で住んでいました。娘の遺産は、現夫と共同名義で購入した自宅アパート、共同名義の銀行預金及び株式が少し、単独名義の銀行預金、あとはSuperannuation と死亡保険がいくらか出るようです。私は娘の現夫が孫には一切遺産を渡さず、全て自分が取ってしまうのではないかと心配しています。恐らく孫は前夫に引き取られることになると思います。孫は娘の遺産を相続できるのでしょうか。娘は遺言書を残していません。 A:まず最初に、故人の資産のうち、お孫さんが相続できる可能性のある“遺産”はどれか判断する必要があります。共同名義のアパートに関しては、もしその所有権が“Joint Tenancy”という事であれば、自動的に現夫名義に変更されてしまいます。(その所有権形態が”Tenancy in Common”であれば、自動的な名義変更はされません。)共同名義の株式及び銀行預金についても同様です。従い、そのような共同名義の資産については娘さんの遺産ではなく夫の資産として考えられますので、お孫さんの相続の権利は原則的に無いことになります。単独名義の銀行預金預金に関しては、遺産の一部であると考えて良いと思います。 Superannuationが遺産となるか否かは少し複雑です。もしも故人がBinding Death Benefit Nominationという方法でSuperannuation  Fundにあらかじめ受取人を指定していれば、これは相続とは関係なく、その受取人に支払われることになると考えます。もしも誰も受取人を指定していなければ、これは遺産として分配されることになる可能性が高くなります。死亡保険もこれと似て、原則的に、あらかじめ指定された受取人に支払われることになります。 NSW州では、本件の様に再婚の場合で前の配偶者との間の子がいる場合の法定相続は、①:故人の私物(Personal Effects)は配偶者が相続。②:約$500,000までは配偶者が相続。③:遺産総額から①と②を差し引いた残額を、配偶者と子で等分、です。 もしその結果、お孫さんの相続分の遺産が全くなかったり、妥当でないと判断された場合には、Family Provision(日本の遺留分に似たもの)という制度の下にお孫さんは妥当な遺産の分配を求める事が出来ます。もし、合意に至らなかった場合には裁判で争う事になります。 遺言書がない場合、未成年者(18歳未満)の相続分は、恐らく、18歳になるまで公的機関(NSW Trustee and Guardian)に供託されることになると思います。  


相続・遺言書

財産分与及び子供との帰国

Q: 先日別居中の夫から新しい家庭を持ちたいので、正式に離婚したいと言われました。夫とは15年前に結婚し、7歳と9歳の子供がいます。夫は5年ほど前に今住んでいるアパートから出ていき、それ以来別居状態が続いています。このアパートは結婚当初より夫名義です。別居以降も生活費は十分な金額を定期的にもらっています。 夫はそこそこ成功しているIT会社のオーナーです。結婚して数年後、そのIT会社を始めました。初めのうちは事務関連を手伝っていましたが、上の子供が生まれてからはずっと専業主婦をしています。先日も口論となり、「お前には子供達が大きくなるまで今まで通り生活費は払う。それ以上払う気はない。」と言われました。私名義の資産はほとんどありません。夫とは会う度にもめるので、心身ともに疲れ果てています。子供達に遺産を残してくれるよう遺言状を書いてくれるのであれば、子供達を連れて日本に帰ろうと思っています。何か良いアドバイスを頂けますか?   A: 質問者は精神的に相当参っているようですので、まずは冷静さを取り戻す事が必要です。友達やカウンセラーに相談するのもよいと思います。 まず認識して欲しいのは、今あるご主人名義の資産(例えば銀行預金、IT会社の株、アパート等)は婚姻財産としてそれらに対しあなたにも権利があるという事です。法律は婚姻財産構築のための貢献として、あなたによる二児の子育て及び家事を認めてくれます。伺った事実関係から、おそらく、あなたには少なくとも50%の権利はあるでしょう。(ただし、アパートについては結婚前からのご主人の持ち物なので、その分配については若干複雑な要素を含んでいます。) これに加え、二人の子供達を引き続き育てていくのであれば、50%以上の権利があるように思えます。二人の子供達、あなたの将来のためにもここで弁護士に相談し、婚姻財産の分配、子供の養育費、日本への里帰り等についてきちんと取り決めるべきです。ご主人と婚姻財産分配につき冷静に話せる状況でない場合には、全て弁護士に任せるのが良いと思います。また、ご主人が威圧的であったり、暴力をふるったりするようであれば、すぐ警察に連絡してください。 ちなみに、いくら遺言状が残されたとしても、いつでもご主人はそれを書き換える事が出来ますし、遺言状に何が書かれていようとも、ご主人に新たな家族が出来れば、その新たな家族に遺産相続の権利が生まれてしまいます。従って、遺言状を書いてもらうというのはあまり有効な手段とは言えません。 また、子供達を日本に連れ出す場合にはご主人の同意が必要になります。


相続・遺言書

相続財産に関する婚姻財産の分配 

Q:結婚して20年になりますが、今年の始め頃から夫との仲が険悪になり始め、先日、離婚することで合意しました。私も夫も、オーストラリア国内には大した財産は持っていないのですが、昨年、私の父が日本で他界した際に、多額の現金資産を私に遺してくれました。この遺産は私の日本の銀行口座に入金したままになっています。婚姻財産分割ということで、この遺産は、夫に半分取られてしまうのでしょうか?   A:親などから相続した遺産が、婚姻財産分割の対象資産となるか否かは、その状況によります。当事者同士で合意ができない場合には、最終的には裁判所に判断が委ねられる事になります。それに関し以下に示す事項が考慮されることになります。 •  遺産を相続した時期。むろん離婚した後に相続したものであれば、原則的に婚姻財産とはならないのに対し、婚姻期間中、例えば10年20年も昔に相続したものであれば、時間の経過とともに婚姻財産の一部であると判断される可能性が高くなります。 •  遺産の使われ方。例えば、その遺産が夫婦共同名義の自宅購入資金の大部分として充てられた場合、自宅の婚姻財産分配については、その購入に関し相続人の貢献度が高かったとしてより有利な分配を受けられる可能性があります。つまり、相続した遺産は「自己資金」として考慮されます。なお、ある程度時間が経っていても、その遺産が婚姻財産から完全に切り離された状態を維持していれば、その遺産が婚姻財産分配対象となる可能性は低くなります。 •  故人に対する相手側の貢献度の重要性。遺産を遺してくれた故人に対し、相手側が生前、故人に対し何らかの貢献した場合、状況によっては遺産は夫婦の一方にのみ遺されたのではなく、夫婦両方に対して遺されたとみなされるケースがあります。例えば、(1)相手側が、他界前の2年間病床にあった故人を、フルタイムで看病していた(2)故人が生前、経済的に困窮していた時期に、相手側から、あるいは婚姻財産の中から、経済的援助をしていた、という場合等。 今回の相談者については、相続が発生したのは去年ということであり、婚姻が20年に渡っていたことを考えると、比較的最近のことです。また、その遺産は日本で相続された後、日本の銀行口座に入ったままになっており、オーストラリアでの婚姻生活・婚姻財産と完全に切り離された状態を保っているようです。従い、この遺産が婚姻財産に取り込まれてしまうような特殊な理由が無い限り、配偶者にこの遺産についての権利が認められる可能性は低いと思われます。  


相続・遺言書

日本人によるオーストラリアの遺産の相続

Q:約半年前、日本に住んでいた私のいとこが、唯一の目ぼしい遺産としてQLDの銀行口座に日本円で約5,000万円ほど預金を残し他界しました。私はいとこの唯一の親族で、オーストラリア在住です。いとこは遺言状を残していませんでした。先日、日本の弁護士にいとこの遺産相続につき問い合わせたところ、「もし私がいとこの唯一の親族であった場合、わたしには日本法上相続権はなく、おそらくオーストラリアの故人の銀行預金は日本の国庫に納められる事になる」と意外なアドバイスを受けました。どうも納得がいきません。   A:故人は日本生まれ、日本国籍で、海外で数年間駐在した以外はずっと日本で暮らしていたものと仮定します。そのように定住所(Domicile)が日本にある方が、QLDに資産を残した場合、遺産相続に関し国際私法の適用があり、複雑な法律問題が発生します。(国際私法とは何であるかについてはまたの機会に説明します。)国際私法上、QLDにある不動産についての相続は、故人の定住所を問わず、QLD州法によって行われます。しかしながら、銀行預金のような動産の相続は、国際私法上、定住所の法律(今回の場合は日本法)が適用されると定められています。余談ですが、もし日本に定住所を持つ方がオーストラリアに不動産及び動産を残して遺言書を書かず亡くなられた場合、不動産相続については当該オーストラリア州の法定相続割合、動産については、日本法上の法定相続割合での相続となります。 日本の相続法によると、故人のいとこには相続権がありませんので、もし預金が日本の銀行にあった場合その弁護士の方がアドバイスした通りその預金は日本の国庫に入れられてしまう可能性が高いと思います。   しかしながら、本件のようなQLD州にある預金に関し、2017年にQLD州最高裁により次のような判決が下されました。事実関係は本件の質問者の場合とほぼ同じです。その判決を要約すると、「日本法に基づく、相続人不在の場合の国庫への納金は、国際私法上の“相続”ではなく、それは法律で定められた国の特権である。そのような法律上の特権は国際私法上QLD州には適用されない。日本法上の相続人が存在しない場合には、QLD州にある故人の動産はQLD州法に基づき相続されるものとする。QLD州相続法上いとこの相続権が認められているので、故人の動産はいとこが相続権を有することになる。」というもので、結果、故人のいとこが銀行預金を相続することになりました。 この判例を鑑みると、本件においてもあなたは故人の財産を相続する権利があるものと考えられます。むろん故人が遺言書を残していれば、こうした国際私法上の問題は起こらなかったはずです。  


相続・遺言書

遺言書 ― Family Provision(オーストラリアの遺留分制度)

Q:私には3人子供がいるのですが、次男には遺産を何も遺さないとする遺言書を書こうと思っています。しかしオーストラリアにも日本の遺留分制度と似た、Family Provisionという制度があり、どんなに遺言書でその子の相続を廃除しようとしても、それができない可能性があると聞きました。こうした可能性を避けるには、どうしたらいいのでしょうか?   A:Family Provisionとは、「遺言書に相続の権利が明記されていない場合でも、故人の子供や扶養家族等は、遺産の一部を相続できる権利がある」というものです。但し、日本の遺留分制度と違い、明確な分配比率は定められていないため、それぞれの状況に基づき、どのような分配が妥当かを決める必要があります。この点、協議で合意が得られない場合には、裁判所で争われることになります。 裁判所はFamily Provisionに関する判決を出すにあたり、様々な事柄、状況、社会通念を考慮に入れます。 まず、遺言書の記す遺産分配が、公平・公正な分配であると判断される場合には、Family Provisionのクレームのリスクは下がります。この点、何故、次男に対し遺産を何ら遺したくないかという理由が重要となるでしょう。例えば、その理由が「生前、次男には事業のために多額の資金援助をした」「住宅購入のために頭金を出してあげた」等の理由があれば、次男のFamily Provisionを要求する権利は弱くなると考えられます。そのような理由がある場合には、直接遺言書、又は別紙にその理由を明記し、残しておくことをお勧めします。 また、遺産総額が少ないほど、裁判所はFamily Provisionのクレームを認めにくくなる傾向にあります。 財産を他の子供たちに生前贈与することも可能です。但し、現金以外の生前贈与の場合には、税務上(印紙税を含め)問題になる可能性がありますので、注意が必要です。また、Family Provisionの配分を決めるにあたり、場合によっては生前贈与も考慮に入れられてしまう可能性もあります。 死亡時の生命保険金は遺産ではないので、相続手続きとは別に、指定された受取人の手に渡ります。また、Superannuationについても、受取人を指定しておけば、生命保険と同様に、遺産の一部になることなく指定された人が受領できます。これらを活用することも可能ですが、生前贈与と同じく、これらもFamily Provisionの配分の考慮に入れられてしまう可能性があります。 結論として、客観的に公平・公正な理由が無い限り、Family Provisionの権利を持つ相続人を完全に相続から廃除するのは難しいということになります。