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フェアワーク・オンブズマン(労働基準監督署に相当)は、オーストラリアの労働法の遵守を促進する役割を担い、労働法違反の可能性があれば調査を行い、悪質な違反については罰金の支払いを求めたり、労働者に代わって労働法訴訟をおこなう機関です。もし会社が調査対象または執行措置の対象になっている場合は、労務コンプライアンス上の問題点を見極め、その状況下で最善の解決策を見出すためのお手伝いをいたします。

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労働法

オーストラリアの労働法 ― ドメスティックバイオレンスに関わる有給休暇制度

Q:新しく「ドメスティックバイオレンス有給休暇」という制度が始まると聞いたのですが、これはどういうものなのでしょうか。   A:これは正確には「Paid Family and Domestic Violence Leave」といいます(以下「DV休暇」)。要は従業員が、DVに関連し、休みを取らざるを得ない状況が発生した場合の対応措置です。無給のDV休暇はしばらく前から存在していたのですが、今年の2月から、有給のDV休暇の制度が始まりました(但しFair Work法の定義上の“Small Business”は8月から適用)。DV休暇は年に10日間。翌年への繰り越しはできません。 DV休暇を取得するための条件は下記の通りです: 1. その従業員が“Family and Domestic Violence”に遭っている。 2. その従業員がFamily and Domestic Violenceに関し、対処する( “do something to deal with”)必要がある。 3. その従業員の就業時間外に上記②の対処をすることは現実的でない。 の全てを満たす必要があります。 1に関し、Fair Work Act上の“Family and Domestic Violence”の定義を要約すると「危害を加える・恐怖を与える、あるいは強要する・コントロールすることを目的とした、直接の家族(過去のパートナーを含む)による暴力・脅迫等の虐待的行為」と言えます。ここでの“直接の家族”は、「配偶者(De Facto含む)、子、親、祖父母、孫、兄弟姉妹」だけでなく「配偶者(De Facto含む)の子、親、祖父母、孫、兄弟姉妹」も含むと定義されています。 2は、例えば、DV被害から逃れるためのシェルターへの引っ越し、DVに関する裁判所への出廷、警察の捜査への協力、医師・弁護士・ファイナンシャルアドバイザーとの相談等が含まれます。 3 は少しハードルの高い条件です。DVはその性質上、一般的に被害者・加害者が家にいる時、つまり就業時間外に発生するものですから、警察への通報と初動捜査も就業時間外になることが多いです。また、Domestic Violence Order発行のための裁判は通常、被害者の出廷は求められません。従い、3の条件が満たされるのは、DV被害に関し医師の診断を受ける・弁護士と法的対応につき相談する、(DV発行裁判ではなく)DVに関する暴行・傷害などの刑事裁判に被害者(証人)として出廷するための準備をするなどの必要が生じている状況だと思います。現実的には、DV休暇はある程度重いDVの被害に遭った時にのみ申請出来るものだと考えられます。  


労働法

オーストラリアにおける労働法 — カジュアル従業員の権利

Q:5年ほど前に“カジュアル従業員”として雇われ、月~金、9~17時の出勤で、法律上の最低賃金に25%のカジュアル手当を加えた給料が支払われています。この間、友達から「それって実質的に はパーマネント(フルタイム)従業員なんだから、有給休暇とかの権利があるんじゃない?」という指摘を受けました。私には実質的なフルタイム従業員として、そのような権利があるのでしょうか?     A:正確なアドバイスをするためには事実関係を詳しく分析する必要がありますが、原則的に、カジュアル従業員としての雇用契約書を提示され、合意し、基本時給に25%増しのカジュアル手当が支払われているのであれば、フルタイム従業員と同じ勤務時間で働いていたとしても、それはカジュアル雇用だと考えられます。 しかし、だからといってフルタイム従業員の持つ権利をカジュアル従業員は全く持たないというわけではありません。例えば、カジュアル従業員はAnnual LeaveやPersonal Leaveの取得権利こそ有しないものの、Long Service Leaveの取得権利は発生する可能性があります。 また、そのカジュアル雇用が「定期的かつ体系的なものであり、継続的な雇用が妥当に期待できるもの(Regular and systematic basis with reasonable expectation of continuing employment)」である場合には、不当解雇の訴えを起こす権利や、Flexible Work Arrangementを求める権利も生じえます。 現実問題として、今回の相談者のように、カジュアルで長期間に渡りフルタイム従業員のような勤務時間で働いている場合、上記のような権利が生じるかは事実関係に委ねられ、明確にはなっていません。こうした問題を回避すべく、近年、法律の改正があり、多くのカジュアル雇用において( “Small Business” 等の例外もありますが)、定期的に継続するカジュアル雇用が開始してから12か月が経過した従業員に対して、雇用主は、フルタイムまたはパートタイム(パーマネント)雇用への変更をオファーする義務を負うことになりました。あくまでオファーなのであって、従業員として「私はカジュアル雇用を継続したい」というのであれば、断っても問題ありません。この法改正により、少なくとも1年目において、雇用ステータスを明確にし、後に「私は実質的にフルタイム従業員なのでは?」という問題が起きるリスクを軽減させています。   また、今回の相談者のような従業員は、最初の12か月目のパーマネント雇用オファーのタイミングの後であっても、雇用主に対してパーマネント雇用化を求める権利が生じる場合があります。雇用ステータスとその権利を明確にするためにも、まずは雇用主と相談することをお勧めします。


労働法

オーストラリア人種差別禁止法 

Q:シドニー在住の日本人です。市内の有名なフランス料理店でウエイターとして3年ほど働いています。最近、マネージャーが代わってしまい、初日に「きみは普通に仕事は出来ているようだけど、君の英語は日本語訛りが強いから、レストランのイメージにそぐわない」という理由で、シフトを減らされました。これは私に対する人種差別ではないでしょうか?   A:連邦のRacial Discrimination ActやNSW州のAnti-Discrimination Act等の法律により、差別は禁止されています。 “差別(Discrimination)”とは、「ある者を、差別要素に基づき、そうした差別要素を持たない者よりも悪く扱うこと」と法律上定義されています。もちろん“人種”は、代表的な差別要素です。他の “差別要素”には、性別、家庭内での役割、Disability、年齢、宗教、労働組合に加入しているか否か等、様々なものがあります。 人種(=Race)というと、肌の色など、外見的な要素のことをまず想像しがちですが、もちろん外見だけでなくその人種固有の社会、文化、歴史、政治に基づく差別も、場合によっては “人種差別”と判断されます。今回の相談では、強い日本語訛りの英語を喋るということがシフトを減らされた理由となっていますが、「言語やアクセントも“人種差別”の要素に含まれる」という判例もあります。 ここで注意すべきは、職務遂行のために不可避な差別は、例外的に合法となるケースがあるということです。例えば、女性用のドレスのファッションモデルの仕事に男性モデルを採用しなかったとしても、これは性別に基づく差別にはあたりません。同様に、日本史の先生を起用するにあたって、オーストラリア人のAさんと日本人のBさんを比べた場合、Bさんの方が、知識と経験が豊富であると判断し起用した場合、それは、Aさんに対する人種差別ではありません。しかしもし、Bさんを起用する理由が、日本人であるという事であれば、それはAさんに対する人種差別になります。 今回の相談者の場合には、仕事は問題なく出来ていたとすれば、「日本語訛りが強いからレストランのイメージにそぐわない」というのは、人種差別に当たる可能性が高いと思います。 職場での差別問題は、その差別を直接的に行った者(今回は新任のマネージャー)だけでなく、雇用主であるレストランのオーナーにも責任が生じ得ます。雇用主はこういった差別の発生を防止するために必要と思われる全ての妥当な手段を講じる義務があり、また、実際にそうした差別が生じた際には、雇用主として迅速かつ誠意ある対応をする義務があります。従い相談者は雇用主にまず相談すると良いと思います。