別居中の相続と婚姻財産の分配

2019年6月

 

Q:オーストラリアに居住して20年近くになります。夫と別居して5年になり、連絡もほとんど取っていません。もう、夫婦としての関係は破綻したと思っており、離婚と婚姻財産分配の手続きを始めようかどうか悩んでいたところ、先日、夫から「末期の癌が見つかって、医者から余命1か月だと宣告された」との知らせがありました。夫の遺言書の内容は知らされていませんが、私に全てを遺すような遺言書を書いているとは思えません。もし彼が亡くなってしまった場合、私の婚姻財産に対する権利はどうなるのでしょうか?また、私にも遺産を受け取る権利はあるのでしょうか?

A:オーストラリアにおける離婚及び婚姻財産の分配については、Family Law Actという法律が適用されます。同法第79(8)条により、婚姻財産に関する裁判が開始されていれば、どちらかがその途中で死亡しても、遺言執行人または遺産管理人を故人の代理人として裁判を継続することができます。重要なのは、訴訟は配偶者が存命中に開始されなければいけないということです。もしご主人が亡くなる前に裁判が開始されていなければ、配偶者の婚姻財産分配の請求権は消滅していまいます。従って、もしもあなたが婚姻財産分配という方法を選択するのであれば、早急に訴訟を始める必要があります。

もしご主人が亡くなる前に婚姻財産分配の裁判が始められなかった場合には、あなたの権利は、遺産の相続人としての権利となってしまいます。この点、もしご主人があなたに財産を全く遺さない、または不十分な遺産だけを遺すような遺言書を書いたとしても、配偶者であるあなたには、Family Provision(日本の遺留分請求に似た制度)を求める権利があり、遺産の一部を取得できる可能性はあります。Family Provision上、あなたにはどのくらいの権利があるのか、または無いのかは、裁判所があなたの状況等、遺産に関する様々なことがらを考慮し、自由裁量により判断します。特に重要となるのは、あなたがご主人の扶養家族として自身の生活をご主人に頼ってきたかどうかという点です。

これに対し、婚姻財産分配を求めるという方法では、家庭裁判所は主に「分配対象となる婚姻財産を取得するために、夫婦それぞれがどれだけ貢献したか」という、過去の婚姻期間中の状況の分析に重きをおいて、財産の分配額の判断をします。ちなみに、専業主婦による子育てや家事等の家庭への貢献も当然考慮されます。

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林由紀夫
主任弁護士
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